NHK『今だから、新作ドラマ作ってみました』
【5月15日 記】 YouTube の『12人の優しい日本人を読む会』の記事でもちょっと触れたが、NHKが“テレワークドラマ”と称して『今だから、新作ドラマ作ってみました』という企画を3本作って放送した。
その第一夜を見たのだが、ちょっと期待はずれ。やっぱりワンショットの切り返しやワイプ合成だけという単調な構図だと飽きてしまう、というのがそのとき書いたことだ。
矢島弘一が脚本を書いた第一夜は、遠距離恋愛カップルの満島真之介と前田亜季が、本来だったら今日ハワイで結婚式を挙げているはずだったが、コロナ騒動で家から出ることさえできず、チャットで話しているというシチュエーションだ。
男と女の感性の違いみたいなものもテーマの1つになっていて、途中ちょっと険悪な会話になったりもするのだが、そういう物語を、如何にも自分のスマホや PC で撮りましたみたいな構図で(実はテレビカメラがちゃんと入って撮っていることは明らかなのだが、そういう見せ方をしている)延々と見せられると気分が塞いでくる。
やっぱりこういうのはしんどいな、と思ったのが第一夜だった。
その第一夜があまりに面白くなかったので第二夜は見なかった。ちなみに、ちょっと予告編を見た限りでは、小日向文世の PC に、小日向の妻で先日亡くなったはずの竹下景子からビデオメッセージが来るという話のようだった。これも直感的に画変わりがしんどそうだ。
ただ、このドラマを観ようと思ったのは、単にテレワークドラマという果敢な取り組みに惹かれたからではなく、第三夜の脚本が森下佳子だったからだ。
で、森下佳子の第三夜を観てみたら、さすがに森下佳子が書くと面白いのである。
柴咲コウとムロツヨシと高橋一生がそれぞれ自分の役で出ている。そして、ある日、柴咲とムロが入れ替わってしまう。これはもちろん山中亘の児童文学を大林宣彦が映画化した『転校生』のパクリである。と言うか、今日までにたくさんの映画やアニメがあの設定をパクってきた。
もちろん、今回のドラマもそれを隠すわけではなく、しっかりとオマージュであることを打ち出して、タイトルも「転・コウ・生」となっている。コウが片仮名になっているのは柴咲コウのコウだ。あるいは生は高橋一生の生なのかもしれない。
で、高橋一生はどう絡んでくるかと言えば、柴咲コウの飼い猫と入れ替わってしまう。そのあと第2次、第3次の入れ替わりも起きて、もはや誰が誰かわからなくなって来る。2人×2 にしないで{2人+(1人+猫1匹)}にしたところに森下の才知が表れている。
ここでも登場人物はスマホのビデオチャット等で会話するわけだが、画像的にそういう演出はあまりやっていない。多少はあるが、過度には押してこない。
むしろプロのカメラマンが撮ったプロの映像がある。それぞれがそれぞれの自宅にいる想定なので、すべてのカットがワンショットである。その設定によって三密を避けている。ただし、若干の撮影スタッフは近くにいるのである。
そう、そのぐらいで良いんじゃないかな。変に自撮りっぽく、zoom っぽくする必要はないのだ。
カメラマンがいることによって画にバリエーションが生まれる。同じ人間が映り続けていてもカット変わりがあることによって映像が豊かになる。飽きない。画作りでストーリーを補強できる。ワイプの切り替えも面白い。
基本ワンショットなのだが、人と猫のツーショットはアリなのかと気づくと、観ているほうが笑けてくる。
さすが、森下佳子。変なこだわりを持たず、制約を自ら楽しみ、世界を広げている。こういうことなんだろうな、工夫と言うのは。
ますます森下佳子が好きになった。
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