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Friday, March 27, 2020

映画『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』

【3月27日 記】 映画『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』を観てきた。僕はドキュメンタリを普段見つけないので、ドキュメンタリとしての作りの巧拙を語る気はないけれど、逆にそんなことに全く気を取られることなく、めちゃくちゃ面白く観た。

1969年5月13日、東大駒場キャンパス900番教室で、1,000人を超える全共闘の学生と三島由紀夫の討論会が催された。その模様をTBSが取材した映像がまるまる残っており、それを編集して、間に様々な人のインタビューを挟んだドキュメンタリだ。

このインタビューの人選がまことに適切だ。いや、人選も適切なのだが、彼らの振り返りや解説、解釈が適切で、それがあるおかげで、僕らは議論の進み行きを整理しながら見届けることができるのだ。

インタビューされている人たちの何人かはその時その場にいた人たちだ。つまり、当時の東大全共闘の学生だった人。今ではみんな70歳過ぎの爺さんだが、それぞれ演出家であったり学者であったりする。そして、取材に入っていたTBSの記者と新潮社のスチル・カメラマン。

さらには三島が率いていた盾の会のメンバー。三島と親交のあった瀬戸内寂聴、三島を取材した『平凡パンチ』の記者(三島が『平凡パンチ』で扱われるような、言わば“スター”であったことを今日初めて知った)。

さらに、純粋に第三者的な立場から、平野啓一郎、内田樹(彼はこの翌年に東大に入学した)、小熊英二がキャスティングされているのだが、彼らの(とりわけ内田の)見立てや理解に説得力がある。

妻も観たいと言うので一緒に観たのだが、僕らのように、三島が自衛隊のどこかを占拠して演説の末自決した事件をリアルタイムで見聞きはしていながら、年齢的にその意味を解釈することがまるでできなかった世代にとっては、やっぱりとても気になる映画だった。

そして、僕らの疑問にいろんな意味で答えを出してくれる映画だった。

何よりも驚いたのは三島と全共闘の学生の間でちゃんと議論が成立していることだ。

学生の中には三島を挑発しようとする者もいたが、三島は乗らず、しかし学生の話には真摯に耳を傾け、それに真っ向から答え、自分が揶揄されればある部分は冗談交じりに認め、決して議論を決裂させようとはせず、学生たちと一緒に新しい高みに達しようとしている。

そして、学生たちも概ね敬意と礼節を失わずに三島に接している。だから、不毛な罵り合いにならない。もちろん政治的立場が180度違うわけだから、どこまでもすれ違いの部分はあるにはある。でも、そこにあるのはしっかりとした議論であり、知性の交換だ。

これはすごいことだ。とりわけ今の、例えば twitter などでは考えられないことだ。

最後まで見て一番驚いたのは、監督が豊島圭介だったこと。エンタメ系の作品の多いこの人がこんな映画を作るとは思ってもみなかったが、あ、そうか豊島監督も東大卒だと気がついた。そして逆に政治的作品を撮ってこなかったことが起用の理由になっていたらしい。

豊島圭介は言っている:

最初に考えたのは、この三島由紀夫と東大全共闘の討論会のドキュメンタリーを 50年後の 2020年に見ることの意味は何かということでした。そして何か今にフィードバックできることがないだろうかというつもりで話を聞き始めたんです。今の時代は、SNS のツイッターとかで匿名の人たちが罵詈雑言を浴びせ合う状況がありますけど、それはもう議論ではない。こういうものこそほんとうの議論なんじゃないかというのが最初に立てた仮説でした。

全くの同感である。

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Comments

小生も「爺さん」のひとりですが、三島由紀夫を尊敬してやまないと公言していた野坂昭如もまた、平凡パンチ連載で若者のトリックスターになった作家のひとりでした。

Posted by: hikomal | Friday, March 27, 2020 23:21

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