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Tuesday, March 10, 2020

『糸』マスコミ試写会

【3月10日 記】 映画『糸』のマスコミ試写会に行ってきた。

瀬々敬久監督はとりたてて好きな監督ではない。それは僕がオーソドックスな作家よりトリッキーな作家を好むからであって、良い映画を作る人だとは思っている。

この映画は中島みゆきの名曲とされる『糸』をイメージに作られたものだが、そう言えば TBS は以前にもこんな風に大ヒット曲をモチーフに映画を作ったことがあった。2006年の『涙そうそう』だ。監督は土井裕泰、妻夫木聡と長澤まさみ主演だった。

同じ土井監督で2010年には『ハナミズキ』を撮っている。こちらは新垣結衣と生田斗真。どちらも悪くない映画だったと思っている。

ところで、この『糸』は 1998年のリリースだと言うが、僕はリアルタイムで聞いた記憶がない。むしろ最近になってよく聞く気がする。1998年といえば僕があまり邦楽を聴いていなかった時期でもあるのだが、この歌にそれほど魅力を感じなかったせいもあって記憶に残っていないだけかもしれない。

僕は中島みゆきには3つのタイプがあると思っている。1)『悪女』のような“ポップな”中島みゆき、2)この映画の中でも2度歌われる『ファイト!!』のような“すさまじい”中島みゆき、そして3)いくつかのヒット曲のような“ベタな”中島みゆきである。この歌は3)に当たると思う。

しかし、そんなことはこの映画の出来には関係がない。これは愛の物語であり、過酷な人生の物語であり、その2つのテーマでよく構成された作品だった。ストーリーは全く知らずに観たほうが良いと思うので、ここには詳しく書かないでおく。

冒頭、「新しい元号は平成であります」との小渕官房長官の声と生まれたばかりの赤ん坊の写真。次いで自転車を漕いでいる菅田将暉が映って、この赤ちゃんがこの青年になったことを観客に示す。そこに同じように自転車を漕いでいる少年の画をダブらせて、これが菅田将暉の少年時代だと解らせる。手際の良いオープニングだ。

少年はもうひとりの少年と落ち合って、間に合わないかもしれない花火大会の会場に必死で自転車を走らせる。もうひとりの少年は長じて成田凌になる。

少年時代の景色が、カメラがグーンと引いた時の広がりがすごくて、どこだ、これは?と思うのだが、学校のジャージに「富良野」の文字、「美瑛」という地名も出てきて、ここは北海道だと判る。

さて、花火が終わった会場で、少年たちは2人の少女に会う。この2人が大人になったところを演じるのは小松菜奈と馬場ふみかである。竹原(成田凌)と弓(馬場ふみか)は後に結婚をする。

映画は残された漣(菅田将暉)と葵(小松菜奈)の過酷な人生の物語であり、愛の物語である。最後は結ばれるのだろうと思って観ているのだが、却々結ばれない。長い長い時が流れ、2人を隔てて行く。2人はまずそれぞれ別の人と結ばれる。

長い長いスパンの話だから、途中から展開が早いのなんの。ストーリー自体は歌をルーツにこねくり回したような、多少作り物感があるのも事実だが、林民夫の脚本がべらぼうに巧いので、こちらの心も素直に揺さぶられる。

「大丈夫?」とか、どんぐりを投げるとか、小技の効いた脚本である。漣がキスするんだろうと思ったらがっしり抱きしめるところなんか、とても良いシーンだった。

そして、いろんなことに翻弄されながら気持ちをしっかり持って生きて行く小松菜奈の姿も良かったが、何と言っても驚くのは菅田将暉。こいつ、めちゃくちゃ巧いね。タダモンじゃない。細かい表情の動き、しぐさ、どれをとっても完璧である。

共演陣も、成田凌をはじめ、齋藤工、松重豊、高杉真宙ら巧い役者が脇を固め、登場シーンは3つか4つだが二階堂ふみが抜群の演技と存在感を示していた。

よく泣く映画だが、観ているほうも素直に泣けるのではないだろうか。良い話だった。4月24日公開。

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