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Friday, February 21, 2020

映画『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』

【2月21日 記】 映画『グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇』を観てきた。

大泉洋や小池栄子目当てではない(もっとも、小池栄子は大好きな女優のひとりではあるけれど)。成島出監督だったからでも、ケラリーノ・サンドロヴィッチの戯曲が原作だったからでもない。脚本が奥寺佐渡子だったからだ。

もちろん、予告編を見て大泉、小池が出ていることは知っていたが、知っていたのはそれだけで、どんな映画だか知らないが奥寺佐渡子が脚本を書いているなら観てみよう、と。つまり、僕はそれくらい奥寺佐渡子に心酔しているのである。

で、そんな少ない情報の下で映画を観てみて、意外だったのは結構ドタバタな喜劇であったこと。それから、これではまるっきり舞台の芝居ではないか、と思ったこと。成島監督は本当にこんなに舞台っぽい映画で良かったんだろうか?と気になった。

だからかもしれないが、カメラがこまめに動くのが目についた。あまりじっとしているカットがなく、上下に左右に、あおったり見下ろしたりちょっと横に回ったり、それはそれで良い構図だと思ったし、その部分はとても映画っぽかった。

でも、そもそも小池栄子がキャラを作り過ぎである。いや、舞台なら何の違和感もないのである。後方の客にまではっきりと伝える演技。客席の最後列まで届く野太い声。でも、それはまるっきり舞台の表現ではないか?と思った。

で、映画鑑賞後にパンフレットを読むと、そもそもケラの舞台でも小池栄子が主演だったのだそうだ。なるほど、それをそのまま映画に持ち込んだわけだ。成島監督は以前から小池栄子主演で1本撮ると彼女に約束しており、この芝居を見て、「これで行こう」と決めたらしい。

脚本の奥寺佐渡子も「原案も原作もどちらも非常に面白いので、本作を映画化するうえでこれといった苦労はありませんでした」と述べている。

なるほど、そもそもがケラの舞台へのリスペクトの上に成り立っていたわけだ。根本的には奥寺作品でも成島作品でもなかったということか。

で、パンフレットを読んで初めて、その舞台が太宰治の『グッドバイ』を原案としていることを知った。僕はそういう間抜けな客である(笑)

『グッドバイ』って、多分読んでいると思う。でも、もう何十年も前の話だ。僕が一番太宰を読んでいたのは多分高1から高2にかけてで、今から考えるとそんな年齢では決して太宰を理解しきれなかった、と言うか、深いところまで読みきれてなかっただろうな、と残念に思う。

さて、映画は妻子を青森に疎開させたまま、東京で両手に余る愛人を作った雑誌編集長・田島(大泉洋)が急に心変わりして、そんな情婦全員と手を切るために知り合いの女性・キヌ子(小池栄子)に偽物の妻になってもらって、順番に愛人を訪ねて行く話である。

このキヌ子が、元が美人なので綺麗な格好をさせればそれなりにサマにはなるが、実は闇市の担ぎ屋で、男勝りで大食いでがめつくてがさつで、という辺りで笑いを取るのが基本だが、松重豊や濱田岳など巧い役者が個性的な役回りで絡んでいるのがおかしいのである。

愛人の兄でシベリア帰りの皆川猿時が頭の線が切れそうなほど大声で喋るところとか、戸田恵子の占い師のものすごい厚化粧と「大体」という口癖とか、ウェディングドレスのデザイナーの池谷のぶえの外国かぶれした感じとか、細かいところでもいっぱい笑える。

終盤に予想もしない展開があって、まあ、その後は多分そんなことだろうなと思ってたとこに戻ってくるのだが、コメディならそんなことで良いと思う。

結局のところ、大泉も小池も非常に巧い役者であることにも大きく引っ張られて、「これはどう見ても(台詞の構成も、仕草も)舞台だなあ」とは思いながら、楽しかったのは確かである。

パンフレットの最後に太宰の『グッドバイ』が掲載されていた。読んでみようと思う。

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