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Sunday, February 02, 2020

『超ヒマ社会をつくる』中村伊知哉(書評)

【2月2日 記】 僕は中村伊知哉センセの講演を何度も聴いたことがあるし、仕事上若干の繋がりもあり名刺交換もしているが、向こうは憶えているはずがないので気楽に書く。

伊知哉センセの特徴は何と言ってもその胡散臭さである。

京都大学の学生~少年ナイフのプロデュース~郵政省(現・総務省)入省~MITやスタンフォードなど米国の大学に留学~慶應義塾大学の先生~数多くの政府機関や諮問委員会の委員~吉本興業の社外取締役などと、その経歴を見ただけでもかなりのインパクトがあるが、まず目につくのはその容姿、と言うか服装である。

伊知哉センセは常に紋付袴姿なのである。事務所のある赤坂界隈を闊歩するセンセをよく見かけるのだが、これは実はよく見かけているのではなく、半径 50m 以内にセンセがいると絶対に気づくというだけのことだ。

役人時代の写真を見ると、そこでは常に蝶ネクタイを締めていたりする。ともかく目立つのである。

彼のことを「自分が目立つこと、自分のパフォーマンス以外には全く興味がない」と言う人がいる(僕が言っているのではないので、念のため)。いや、本人が目立ちたいのかどうかは知らんが、なんであれ目立つのである。そして、目立つことが明らかに彼の仕事のプラスになっている。

最近では自分で自分の名を冠した、今までとは全く違う授業をする「クレージーな」大学 iU(U はもちろん University で i はたくさんの単語の頭文字なのだが、そのうちの一つが ichiya である)を作ったり、竹芝に日本の文化と技術がぐっちゃぐちゃに集合する特区 CiP を作ったり、と常人の発想ではとても辿り着かないことを次々と画策している。

その2つの組織のこともこの本には書かれているが、これはそんな狭い話を綴った本ではない。と言うか、何なのだ、この博覧強記は?それこそ日本の文化と技術の未来がぐっちゃぐちゃに語られている。

この人はこれまでに、そして今現在、一体いくつの団体・組織の代表、理事、世話人、委員、教授を兼任してきて、現に兼任しているのだろうか?

そして、その分裂症気味の性格も相俟って、話題がころころ変わってテンポよく、と言うか圧倒的なスピードで読者を次のページに蹴り出していく。これはロックでありポップでもある。

AI、シンギュラリティ、VR、5G、キャッシュレス、ブロックチェーン、クールジャパン、オタク文化、ボカロ、インバウンド、超スポーツ、eスポーツ、IT教育、文化省構想、起業家育成──1冊の本で一体どんだけのことを語る気か! でも、この人はそんな全ての分野に手を突っ込んでいる。

「日本は遅れている」と「ぼくらは自らの創造性を認識していない」という2つの信念に基づいた強烈な改革意識と圧倒的に楽観的な未来像で僕らをかき回し、引っ張り上げて行く。

ともかく胡散臭い。でも、世の中を引っ張って変えて行くのは、一部のこういう胡散臭い人たちなのである──と僕がウチの社長に言ったら、社長は「なるほど、分かる分かる!」と大きく頷いていた。

あ、本の内容に直接触れないことばかり書いてるよね。ま、それはこの本を買って読んでください。著者も著作もカオスですよ。で、そのカオスから新しい宇宙が生まれるのです、きっと(笑)

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