「キネマ旬報」2月下旬号(2)
【2月6日 記】 さて、今年もキネマ旬報2月下旬号のデータを使って遊んでみましょう。毎年やってここに書いているので、もうあんまり細かい説明はしませんが、キネ旬ベストテンの投票データを分解するわけです。
これは統計学的には必ずしも正しい方法ではないですが、上位10本ぐらいで比較する限りはそれなりに正しく特徴を掴めるのではないかと思います。
キネマ旬報ベストテンは、2019年の邦画部門の投票で言うと、58人の審査員が合計55点を持って、1位には 10点、2位には 9点、…、10位には1点と入れて行きます(しかし、ここのところ毎年審査員の数が減っていますね)。そうやって得られた合計得点で順位が決められるわけです。
で、僕はそれを毎年分解しています。
まず、その作品に何人が投票したのかを確かめます。そして、その人数で得点を割ります。そうすると、その作品に票を投じた審査員1人当たりの平均得点が出ます。その平均得点と投票人数で、映画がどんな形で受けたのかを考えるのです。
つまり、投票した審査員の数は多いけれど平均得点は低い場合は広く浅く受けた映画、投票した審査員は少ないけれど平均点が高い場合は一部にしか受けなかったが深く刺さった映画──あ、結局わりと詳しく説明してしまいましたね。そろそろその結果を見てみましょう。
- 火口のふたり
215点=33人×6.52点 - 半世界
154点=25人×6.16点 - 宮本から君へ
146点=25人×5.84点 - よこがお
137点=22人×6.22点 - 蜜蜂と遠雷
113点=16人×7.06点 - さよならくちびる
111点=19人×5.84点 - ひとよ
109点=17人×6.41点 - 愛がなんだ
103点=18人×5.72点 - 嵐電
102点=16人×6.38点 - 旅のおわり世界のはじまり
101点=15人×6.73点
こうやって並べてみると、今年は上下を比較して数字が逆転しているところが少ないように思います。あんまり分析のやり甲斐がないですね(笑)
あと審査員数が減っているにもかかわらず、10位まで全ての作品が 100点を超えているというのも近年では全くなかったことではないでしょうか。そういう意味では上位作品に集中したという見方もできます。
さて、その中で光っているのは5位の『蜜蜂と遠雷』。投票した人数はこの 10本の中では下から2番め。でも、平均点はトップ。──これはちょっと意外でした。この映画、そんなにマニア受けするような作品でした? 誰が見てもある程度楽しめて納得できる映画だったと僕は思うんですけどね。
平均点が2番めに高かったのに 10位に甘んじた『旅のおわり世界のはじまり』も『蜜蜂と遠雷』と同じように狭く深く刺さった映画だと言えるでしょう。
逆に僕が見なかった『宮本から君へ』。僕はこれはきっとマニアックな映画だろうと思っていたのですが、この分析から見えた結果は逆で、平均点はそんなに高くないけれど、多くの人に受け入れられた作品ということになります。
もっとも、ここで言えるのは多くの一般人に受け入れられたということではなく、あくまで多くのキネ旬審査員に受け入れられたということであり、そういう点でキネ旬的な、キネ旬好みの映画であったのかもしれません(ただ、僕は観ていないのでそれ以上は何とも言えません)。
『宮本から君へ』と『さよならくちびる』は平均点が同じなので、順位の差は人数の差ということになります。その辺も面白いですね。『さよならくちびる』については、確かに通好みの作品だと僕は思いますが。
それにしても5、6、7位がそれぞれ2点差、8、9、10位が1点差とは、今年はものすごい接戦だったようです。ただし、1~4位を除いて。
とりわけ『火口のふたり』がこんなぶっちぎりで1位に選ばれるところがまさにキネ旬!(笑) ますますキネ旬が好きになりました。
Comments