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Saturday, February 01, 2020

映画『mellow』

【2月1日 記】 映画『mellow』を観てきた。今泉力哉監督・脚本。これだけリアルで微妙な台詞を書ける人を、僕は他に知らない。当時“ニュアンス映画”と銘打たれた森田芳光監督の 35mmデビュー作『の・ようなもの』を思い出した。

mellow という小さな、しかし下町ながら洒落た花屋を独りで営む夏目誠一(田中圭)と、彼を取り巻く人々(全員がその花屋の常連客である)の物語。

今泉監督は最初に花屋という設定を思いついて、その後、それと対象的なものとして古いラーメン屋を持ってきて、父の死後その店を独りで切り盛りしている古川木帆(岡崎紗絵)という人物を置いたらしい。

汚いラーメン屋の男が綺麗な花屋の店員に恋をするような物語は五万とあるが、ここではラーメン屋が女性で花屋が男性であるところが面白い。

とにかく夏目がモテまくるストーリーだが、モテ男のモテる故のドタバタや自意識過剰を描いたコメディではない。

映画が始まってすぐ、そのラーメン屋で別れ話をしている男女のシーンがある。面白い設定である。

他に客は夏目だけ。店主の木帆と2人で聞くとはなしに聞いている。この2人の会話が、2人とも大真面目なのだが、もどかしい、まどろっこしい、なんで別れるのか話が見えない。

で、ラーメン食べながらそれを聞いて夏目が泣く。それはまず夏目という男の人となりの説明になっている。

そして、そのあと描かれるのは別れる決心をした青木修二(斉藤陽一郎)と麻里子(ともさかりえ)の夫妻。これまた2人とも大真面目なのだが、何を言ってるんだか、なんでそうなるんだか、さっぱり分からなくて、客席から笑いが起こる。

傍から見たら変かもしれないが、みんなが一生懸命、真摯に生きている。そして、生きて行く中で誰かに恋をして、思いを馳せている。

伝えたい思い、伝えられない気持ち、そして「今日じゃないのかも」と挫折してしまうとまどい。──そんなヒダヒダを今泉力哉は丁寧に丁寧に描き出して行く。

監督はときどきカットを割らずに長い芝居を役者にさせる。動きのない会話だけだったりもする。異様に長かったりもする。そんな展開の中で、役者たちがもどかしさとバツの悪さを余すところなく表現してくれる。

観ていてうっとりするほど良い映画である。

美容室の娘で中学生の宏美(志田彩良)、その母の由美子(唯野未歩子)、夏目の姪っ子の小学生・さほ(白鳥玉季)、木帆の亡父・左近(小市慢太郎)ら全ての登場人物、全ての役者が見事に機能している。

久しぶりに観ていて唸った。終わり方もとても素敵で、後口の良い作品だった。今泉力哉恐るべし。

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