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Sunday, January 05, 2020

映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』

【1月5日 記】 映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』を観てきた。観客はほとんどジジババで、劇場はほぼ満席、パンフレットは売り切れである。

僕は寅さんシリーズをほとんど観ていない。観たのは 1989年の『男はつらいよ 寅次郎心の旅路』、寅さんがヨーロッパに行った回、ただ1作のみである。

僕は基本的にシリーズものが好きなのだが、それは次から次へと新しい展開があるシリーズものである。ほとんど見ずに言うのも申し訳ないが、寅さんが旅に出て恋をして旅から戻って振られる、みたいな同工異曲を繰り返すこのシリーズについては、どんなに脚本や演出が素晴らしくても、残念ながら観る気にはならなかった。

もしも僕が監督なら、多分3本ぐらい撮ったところでほとほと嫌になって、「このシリーズはもう封印する」と言うか、あるいは「次からは他の監督でどうぞ」と絶対言うだろうと思うのだが、山田洋次監督は飽きもせず(なのかどうかは知らないが)何十年にもわたって何十作も撮り続けた。

その心理や心情に共感が持てないのだ。そして、寅さん以外の映画を撮るときも、(多くは寅さんシリーズに出演したことのある)自分の息のかかった俳優ばかりを使おうとするのにも共感が持てない。

いけないとは言わない。単に気に共感が持てないのである。でも、だから観ない。とは言え、別に山田洋次監督を軽蔑しているわけではない。

寅さんを語る時に思い出すのは映画監督の東陽一が書いていたことである。記憶によるものなので正確な引用ではないが、彼が書いていたのは凡そ以下のようなことである。

映画館で周りの客は寅さんを観てゲラゲラ笑っているが、自分は全然笑えない。自分は寅さんの映画は全然好きになれないが、でも、寅さんを観て笑っているお客さんは大好きである。

僕の感じ方もこれに近いものがある。自分では観に行かない。もちろん、それを楽しんでいる人たちの気持ちを踏みにじろうとまでは思わない。でも、自分ではその大いなるマンネリズムに与したくないのである。

『寅次郎心の旅路』を観たのは、今から思えば、寅さんが海外に行くという、ある程度パタンから外れた展開だったからだろうと思う。

今作についても、最後の寅さんが撮られてから、そして、渥美清が死んでからもう何十年にもなっているだけに、同工異曲の作り方はあり得なくて、甥の役で出ていた吉岡秀隆を主人公にして新しい物語を拵えているところに惹かれて観に行ったような気がする。桑田佳祐が歌っていたということも一因だ。

で、なにしろ、断片的にさえ、ほとんど観ていないので、今作を見ても、「あ、倍賞千恵子と前田吟は夫婦の役だったんだ」と思っているくらいの、予備知識ほぼゼロである。

いざ映画が始まってみると、昔の映像、旧作のエピソードがふんだんに取り入れられている。寅さんを初めて見る人でもこれなら入っていけるし、何の問題もなく楽しめる。これはありがたかった。

でも、周囲の観客の喜び方は僕のそれとは段違いに違っている。暗闇の中でも体の動きが分かるくらい体を揺らしてリアクションし、手で口を覆って爆笑し、時には素っ頓狂な声まで上げ、挙句の果てに目頭をハンカチで押さえている。

ああ、そうなのか、この過去のシーンをリアルタイムで一度観ている人にとってはこういう振り返りはたまらんのだろうな、と察する。僕はそんなリアクションをするジジババに好意を抱く。

僕がなんと言っても驚いたのは若い頃の倍賞千恵子の可愛さである。後藤久美子の若い頃の美しさと可愛らしさはしっかり記憶にあるのだが、倍賞千恵子の若い頃は自分があまりに幼少であったので記憶にないのである。こんなに可愛らしかったのかと驚嘆した。桜田ひよりの可愛さが完全にかすんでしまうぐらいだった。

結局この映画で良かったのは、吉岡秀隆の今の演技ではなく、アーカイブから引き上げて繋げられた渥美清の名演である。観ていて素直に笑った。ああ、なるほどこの人の実力はこうなんだ。その間の取り方と台詞の緩急、そして、一本気と弱気、侠気と恥ずかしさがごっちゃになったような絶妙な表情。

この人はこれで愛されたんだなあとしみじみと理解した。

この映画が良かったから、昔の寅さんを観てみようと思うかと言えば、僕に関してはそれは全くない。僕にはこの作品だけで充分である。誤解しないでいただきたいのだが、僕は今作あるいは今作の山田洋次監督を貶しているのではなく、心から褒めている。

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