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Sunday, January 12, 2020

映画『さよならテレビ』

【1月12日 記】 映画『さよならテレビ』を観てきた。テレビ版のほうは、東海テレビのローカル放送をリアルタイムで見たわけではないが、一昨年、仲間内で 録画DVDを取り寄せて鑑賞会をした。

いつも書いているように、僕は観た映画の内容を次から次へと忘れてしまうので、今回の映画版とテレビ版を見比べてここがこう変わったとは言えない。「テレビ版にあのシーンはなかった」と思っている箇所が何箇所かあるが、多分全部間違っていると思う(笑)

今回は、これをネタバレと呼ぶのかどうか知らないが、少し内容の細かいところまで触れるつもりなので、事前に知りたくないという方はここで読むのをやめてもらったほうが良いと思う。

で、僕が仲間内というくらいだから、鑑賞会のメンバーには当然テレビ関係者が多かった。観た人は一様に「面白かった」と言った。しかし否定的な意見もたくさん出た。

曰く、

自分も放送局に勤務する「同じ穴のムジナ」のくせに、自分だけ安全な高みから見下ろしているような描き方は許せない。

正社員ではなく、契約社員や派遣社員にスポットを当てて描くのは間違っている(映画の中では、スポットを当てた人たちは全部正義で、報道部のデスク連中を悪として描いている、というコメントもあるにはあったが)。

いくらダメ男だとは言え、あれでは渡邊が今後の社会生活を送れなくなる。可愛そうだ。と言うよりも、あそこまでダメな男はあまりにも例外的な存在であり、このドキュメンタリで扱うにふさわしくない。

「番組作りにはいろんな段取りや約束事があるが、このドキュメンタリではそういうものを全て取っ払って作っている」風を装いながら、例えば澤村がセミナーで元取材担当者とばったり出会って話をするシーンでも、実際には土方D がアポイントを取ってお互いにピンマイクを仕込んだ上でのシーンだったとネタバラシして、露悪的なほど作り手を追い込んでいるように見せたりしてはいるが、だからと言って完全に仕込みを廃したわけではない。

例えば、テレビ大阪に再就職した渡邊が仕事を終えて他のスタッフと夕日の当たる坂道を登って行くシーンなどは情緒に訴えるためにあきらかにデザインされたものであって、多分何テイクか撮っているはずだ。ほんとうに仕込みを廃するのであればあんな演出はしてはいけない。

などなどである。

その場にいた人の中で、メディアコンサルタントの境治氏だけが「え、みんなそういう風に捉えたんですか!」と少しだけ驚いていたのが印象的だった。僕は上記の意見に概ね賛成であるが、だからといって「その通り!」と膝を打つほどでもない。

それよりも土方D は澤村に「権力が暴走しないように見張るのがメディアの役割ではないか」と水を向けられたときには「正直よく分からないです」と答え、「突然年収が300万円になったらどうしますか」と訊かれたときには「あまり考えたくないですね」と答えている。このドキュメンタリの D がそんな答えで良いのか!?と正直落胆した。

ただ、この作品でひとつだけ言えることは、阿武野P も土方D も完全に確信犯だということである。彼らはただかき混ぜるためだけにこれを作ったのではないか。何故なら今こそテレビ界をかき混ぜておく必要があったから。

それを考えると、この作品は「土方、よくぞこんなものを撮った」と褒めるのも「こういうアプローチは間違っている」と糾弾するのも間違っている気がする。

一般の視聴者と局の人間とでは知識も感覚も異なるので、この作品を一緒に論ずることについては少し危うさを感じる。でも、だからと言って局や業界の中に閉じこもって議論を進めるのも極めて危険である。

結局どうして良いのか分からない。そう、これから考えるしかないのだ。まずは真っ直ぐなスタート・ラインを引くために、この映画は凸凹道を整地したのかもしれない。

なんであれ面白い作品であったのだが、この作品だけは「面白かった」で閉めるわけには行かない。そこが僕らには一番つらいところであり、一般の観客には面白いところだろう。

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