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Sunday, December 01, 2019

映画『殺さない彼と死なない彼女』

【12月1日 記】 映画『殺さない彼と死なない彼女』を観てきた。小林啓一というのは知らない監督だと思ったが、実は前作『逆光の頃』を観ていた。アニメが混じった短い作品だったが、割合良かったような記憶がある(高杉真宙だったのか!)。

小さな劇場だったがぎっしり満員だった、途中であちこちからクスクス笑いが漏れる。

しかし、見始めてすぐに思ったのは、

  1. なんだ、この靄がかかったような画質は?
  2. 桜井日奈子はどうしていつも黒のタイツなんだろうか?
  3. 一つひとつのカットがものすごく長い。

の3点である。

1)は全体がそんなトーンである上に、人物の背景が悉くぼかしてある。なんでこんな面倒くさいことをしたのだろう。カメラに収めた映像は人間の目が認識する映像とはもちろん違うのだが、ここまで目に見えるものと違う映像を見せられるとちょっと気になる。

2)については、『ママレード・ボーイ』に続いて、他の女生徒はそうでないのにひとりだけ黒タイツというのがすごく気になる。

3)については、冒頭の廊下を2人で歩く2つのシーンを皮切りに、かなりの部分をワンシーン・ワンカットの長回しで撮っていて、切れない芝居を見せてくれる。これはとても良かった。

原作は当初 twitter に掲載された4コマ漫画だそうな。で、タイトルの意味するところはメインの登場人物のうちの2人である。

いろんなことに嫌気が差して留年し、クラスの中でも誰とも交わらず、何かというと「死ね」とか「殺すぞ」が口癖の小坂れい(間宮祥太朗)。そして、自傷癖があってクラスでも完全に浮いていて、何かというとすぐに「死んでやる」が口癖の鹿野なな(桜井日奈子)。

でもこの2人はタイトルにある通り、絶対に人を殺したりしないし、本当に自殺してしまったりもしない。ひょんなことから気が合ってしゃべるようになり、お互いのことを「お前」と呼び、「殺すぞ」「死んでやる」というやり取りをしながら、今までの自分とは違った自分に気づき始めている。

ただ、この映画はこのタイトルでこの2人だけを描くのではなく、他に小坂やななと同じ高校に通う2組のペアが登場する。

料亭の娘で、しっかりして、学校でも優等生の地味子(恒松祐里)と、その親友で地味子とは対照的に自分が可愛いことを知ってそれを売りにして、次から次へといろんな男とつきあうが長続きしないきゃぴ子(堀田真由)。

そして、地味子の弟で、ほとんど部員のいない囲碁部に所属して、可愛い顔をして飄々ととしている八千代(ゆうたろう)と、その八千代が大好きで何度も何度も八千代に告白して、その都度にべもない返事しかもらえない撫子(箭内夢菜)。

この3組の話がいずれも恋愛を哲学として捉えているような趣があって、非常に面白い。会話も実にリアルである。

それぞれによく練られて膨らんだ話なのだが、しかし、これを1本の映画の中に収めるにはあまりにバラバラだぞ、と思っていたら、元々は同じ作者による関係のない3つの原作をひとつにまとめたのだそうだ。

で、なんだかバラバラの恋愛観を3つ見せられてこれで終わるのかと思ったら、終盤で衝撃的な展開があり、そして、最後には、予想もできなかった形で3つの話がひとつにまとまってくる。これは本当によくできた脚本である。

パンフレットの対談で、間宮祥太朗はこう言っている:

鹿野はいわゆる“変わってる子”ですよね。でも、小坂はそれを面白がって受け入れてくれる初めての存在だったと思うんです。

そう、そして、“変わっている子”にとって「それを面白がって受け入れて」もらえるほどの幸せはない。そして、地味子ときゃぴ子、八千代と撫子の関係に目を移しても、そこにも同じ関係性がある。この物語が愛おしい愛おしい恋愛譚になっている所以はそこなのである。

6人の出演者が全員個性的で生き生きとして素晴らしい。6人とも素晴らしく映っているということは、やっぱり演出の力が大きいのだろう。

ゆうたろうと恒松祐里が実は一緒に小林監督の前作『逆光の頃』を映画館に観に行っていたというエピソードがとても素敵に思えた。前作に引き続いて佐津川愛美や金子大地が出ていることさえ、なんとなく嬉しくなってしまう。

とにかく後口の良い映画だった。この映画を見逃さなくて本当に良かったと思う。

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