回顧:2019年鑑賞邦画
【12月23日 記】 去年も12月23日だったが、今年も今日「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入ってほしい邦画10本」を選んでみた。2006年から毎年やっているから今回で 14回目である。
毎年毎年同じことを書いているが、これは必ずしも僕が選んだ今年の第1位から第10位ではない。そして、「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入るであろう邦画10本」ではなく、「入ってほしい10本」であり、つまり、僕の応援メッセージであり、引いては「僕はこんな趣味の人ですよ」という自己紹介みたいなものでもある。
そして、対象としているのは『キネマ旬報ベストテン』ではなく、「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内」である。
さて、今年映画館や試写会で観た邦画は 54本。とてもたくさん観た去年より 10本以上少ない。そんな中から 10本をチョイスするわけだが、今年の邦画は大豊作で、良い作品がとても多かったと思う。
そういうわけで、いざ選ぼうとすると6本までは即決したのだが、残りが優劣つけ難くなった。
「入ってほしい」というタイトルのニュアンスとして、当然評価の固まった大御所よりも、新進気鋭の監督へのエールみたいな要素が強くなるのだが、どうも結構名の通った監督の作品が多いのである。それで結局大御所も含めて 14本選んで、そこから4本落とすという作業になった。
まず、落としたのがこの4本:
ちなみに、『天気の子』にはとても感動したし、応援したい気持ちは山々と言うか雨あられと言うか、なのだが、これはどう考えてもキネ旬ベストテンに「入るに決まっている」作品なので、あっさり除外した次第。
で、残ったのがこの 10本である。毎年書いているように、これは僕の評価順ではなく、僕が観た順番である。
この中で言うと2)は僕があまり選びそうもない作品だが、政治的なテーマを扱って、しかもしっかりと物語を構築してあるところに感服した。いま日本は政治的に非常に危ない状況にあるのではないだろうか? その思いは3年前の『シン・ゴジラ』から繋がっている。これが初めて観た若松節郎監督作品だった。
10)も僕がほとんど見ない時代劇というジャンルに入る作品である。ただ、これも扱った時代が古いというだけで、切り取り方は極めて現代的な作品である。とても面白かった。ずっと贔屓にしている中村義洋監督だし、これも選んでおこうか、という感じ。
それから、僕の趣味からずれるという意味で言うと、9)のようなオーソドックスなドラマもそうである。白石和彌監督。「大御所」は少し大げさであるにしても、もう「名匠」と読んでも良いのではないだろうか。細部に至るまで視点のぶれがなく、主演の田中裕子もすごかった。
もうひとつオーソドックスなドラマで言えば6)だろう。菅原伸太郎監督。古舘佑太郎と石橋静河を主演に、周りを岸井ゆきの、清原果耶、泉澤祐希、恒松祐里、蒔田彩珠らが固めるとフレッシュな布陣が良かった。原作者である峯田和伸も良い味を出していた。
以上8本が後から選んだ作品だ。そして、最初にすんなり選んだ6本が以下である。
1)は岡崎京子の漫画を原作に、コラージュ感溢れるカット割りと鮮やかな色彩、そしてとめどなく続く音楽と若手のキャスト。これだけの大人数が出てきて、しっかりと個性豊かに描き分けられているところがすごいのである。映画でしか表現できない作品だった。
3)は初めて観た今泉力哉監督作品だったのだが、いやあ、ぶっ飛んだ。なんじゃ、その愛は?という感じのイタイ女の恋バナで、初めから終わりまでバツの悪い映像なのに、これがげっそりしない。成田凌、岸井ゆきの、若葉竜也、江口のりこというキャストのはまり具合が半端なかった。
4)は久しぶりの塩田明彦監督。これは歌と三角関係を描いたロードムービー。原作のないオリジナル脚本だというところが立派ではないか。思いっきり小松菜奈に感情移入して観た。共演の成田凌も、僕があまり好きでない門脇麦も、3人揃ってどうしようもなく素敵だった。
5)は黒沢清監督と前田敦子による圧巻の映像作品。ウズベキスタンでのオール・ロケによるロード・ムービーで、まるでイラン映画みたいに大したことが何も起こらない。でも、観ているうちに心に沈殿するものがある。ここで旅はおわり世界がはじまるのである。
7)は恩田陸の原作も読んでいたので思い入れの強い作品。『愚行録』の石川慶監督。音を鳴らすことなく音楽をことばで表現した小説を、映像化(それは同時に音声化でもある)するというとても難しい作業に挑んで見事に成功したと思う。主演の松岡茉優も素晴らしかったが、風間塵を演じた鈴鹿央士がまさに風間塵そのものだったのに驚いた。
そして最後に8)。僕は長らく井口昇監督を応援してきたが、これは間違いなく彼の生涯最高の傑作となるだろう。原作があるとは言え、テーマがまさに井口昇でしかありえないようなテーマで、これを描ける作家は井口昇以外にないと思う。特撮、青春、恋愛、エログロ、倒錯──全ての井口昇的要素がそこにあった。
さて、今回はこのうち何本が実際にキネ旬ベストテンの 20位以内に入るだろう。今年もまたそれを楽しみにしながら年を越すことになる。
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