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Saturday, November 16, 2019

『かがみの孤城』辻村深月(書評)

【11月16日 記】 名前は知っていたが初めて読む作家である。中学生たちが主人公の小説だからか、それともこの作家は常にそうなのかは分からないが、ともかく文体が平易で、逆にそれが僕にとってはちょっと我慢がならないくらい物足りない。

いや、読んでいる最中の読者に文の巧拙を感じさせてしまうのは、物語の背後の書き手の存在を露わにしてしまっているわけで、それはそれで好ましくない。でも、例えば、恩田陸などはそういうことを全く感じさせないが、改めて思い返すと文章はべらぼうに巧い。

僕は基本的にそういう作家が好みなのであって、この作家には言わばそういう感じがないということだ。

ただ、文章が下手なのではなく単に平易なのであって、ストーリーのドライブは非常に巧い。読者は全くつっかえたりひっかかったりすることなく、どんどん読み進んでしまうのも事実である。

主人公のこころは中1の女の子。クラスの中心的な女の子に目をつけられてハブられるようになり、学校に行けなくなる。親には申し訳ないと思いながら、でも、親に相談することもできず、結局毎日家で無為な時間を過ごしている。

ある日、こころは自室の姿見が光っているのに気づく。おそるおそる触れてみると硬い感触がなく、そこを抜けることができる通路になっており、抜けた先には宮殿のようなものがある。そして、そこには自分と同じような境遇の(ということは後に判るのであるが)6人の男女中学生が、自分と同じような体験をしてここに来ていた。

そこに7歳くらいの、ヒラヒラのドレスを着た“オオカミさま”が現れて、この城は毎日9時から17時まで空いていること、逆に17時前には一旦もとの家に帰らなければならないこと、そして、この城は来年の3月30日までしか存在しないこと、そして、それまでに鍵を見つけたものが1人だけ望みを叶えてもらえることなどを説明した。

作者は、こころを除く6人の中学生の鏡の向こう(現実世界)での生活については、読者にあまり情報を与えない。鏡の両側で描かれるのはあくまでこころである。

こころは同じ境遇の者たちが集まってお互いに通じ合うものを感じて上手くやって行けるかと思ったが、やっぱり元の世界と同じように、相手のちょっとした態度に腹が立ったり不安になったりして、上手くコミュニケーションが取れない。

登場人物の一人ひとりが微妙にコミュニケーションが取れなくなるメカニズムと言うか、心の端での引っかかり方、わだかまり方を描かせると、この作家は抜群に巧い。何と言うか、心の動きを完璧に分析し終えたような感じで、ものすごく適切でものすごく説得力がある。

自分は不登校にこそならなかったけれど、そうそう、そういう感じはとてもよく解るのである。

この7人がどこからどういうメカニズムで集められたかという謎については、残念なことに僕は小説の中盤で察しがついてしまった。

果たして僕の予想通りの設定であったのだが、しかし、その骨組みは予想可能なものであっても、その肉付けに関してはちょっと予想もできないような、見事に綿密に構築された一大ドラマだった。なにしろ最後の最後で全てのものが繋がってくるのである。

終盤からエピローグにかけても盛り上がりと“なるほど”感は、やっぱり人気のある作家だけあって、プロの力量をしっかり感じさせてくれた。読後感もすこぶる良い。

実際に学校に行けないでいる子たちがこれを読んだら何かが解決するのかどうかは僕には分からない。でも、これは多かれ少なかれ誰もが青春の途中で感じる思いを普遍的に捉えた作品になっていると思う。

良い小説だった。僕が読んでも決して遅すぎない、んじゃないかな(笑)

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