『難しいことはわかりませんが、統計学について教えてください!』小島寛之(書評)
【11月6日 記】 本屋で立ち読みして、タイトルの通り難しくなさそうだったので買って1日(と言うか2時間ぐらいかな)で読み終えた。で、その解りやすさに改めて驚いた。
いや、僕の場合は、もう 20年以上前にはなるが、仕事上の必要から統計学を少しかじった経験があるからなのかもしれず、全くの知識ゼロから統計学に入門しようとしている人たちにも同じように解るのかどうかは分からない。
ただ、そういう人たちにとってもかなり優れた書物なのではないかと思う。
僕の場合は、一度は一応理解したのだけれど今ではさっぱり忘れてしまったことや、ざっと理解した気になっていても部分的に結局は深く理解できずにいた点や、あるいは、当時から全然理解できないまま放置してあった項目が、この本を読んで圧倒的に改善した。
そして、それだけではなく、いろんな定数や数式や定義が、なんでそうなのかという点で見事に繋がってきた。これはすごいことである。
この本が何よりとっつきやすいのは、まず数式を使っていないことである。いや、もちろん統計学を数式抜きでは語れない。ただ、語る際に、典型的に分かりやすい例を挙げると、例えば総和を表す記号 Σ(シグマ)を使っていないのである。
ではどう書いてあるかと言えば、例えば「データをすべて足し」とか「データの個数の合計で割る」とかと書いてある。
もちろん Σ を使ったほうが、数学的に厳密に定義して網羅的にそれを表すことができるが、単に概念を理解するためであれば、上のように文章で表したほうが理解が進むのである。
それから変数に名前を与えていないことも重要。平均はいつでも「平均」と書いてあって μ などとは記されていない。同じように σ ではなく常に「標準偏差」、r ではなくて「相関係数」という言葉で書いてある。
だから、「えーっと、これは何だっけ?」という、統計学の勉強におけるあるあるネタには陥らないのである。
それから、もうひとつ特筆すべきは、解説の順番である。
この本は、まあ、「平均」「分散」「標準偏差」辺りから説き起こすのは他の本と同じだが、その後「標準化」「正規分布」「区間推定」「仮説検定」「相関係数」「回帰分析」という順番で論を進めている。
この順番がとても頭に入りやすい順番なのである。
そして、数学的にややこしいところはあっさり説明を放棄して、「ともかくそう覚えてください」みたいな書き方をしている。この潔さも逆に理解を助ける。途中よく分からなかったところが読み進んでいくとうまく繋がって分かって来るような構成にもなっている。
さすがに最後の重回帰分析の辺りになると僕ももう一度読み直さないとよく理解できなかったりもするのだが、冒頭でも述べたように、こんなにするする頭に入ってくる統計学の解説書は見たことがない。
『難しいことはわかりませんが、統計学について教えてください!』というタイトルに偽りはない。難しいことは教えてくれないが、統計学の理念を学ぶには最良の書ではないだろうか。
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