ネーミング
【11月11日 記】 先日久しぶりに東京駅から新幹線に乗って思ったのだが、最近は新幹線が増えすぎて、どれが何なのか分からなくなってしまった。
新幹線ができた当初は分かりやすかった。なにしろそれは東海道線しか走っていなくて、しかも、こだま号とひかり号しかなかった。
こだまとひかりというのがまた絶妙のネーミングではないか。音と光だ。日常的に身の周りにあるが、決してその速さを実感することもできないくらい速いもの。
そもそも小さい頃は音や光に速さがあるなんて知らなかった。なんと言うか、それはそこにあるものだと思っていたのだ。それが、遠くの星の爆発が宇宙空間を伝わってきたとか、何かと何かがぶつかった衝撃が空気を振動させて伝わってきたとか、そんな風に教わって初めて音や光が波であることを知ったのだ。
話が逸れてしまった。いずれにしても音も光もとてつもなく速いものであって、しかも、音よりも光のほうが速いことは誰でも知っている。だから、こだまとひかりというネーミングは絶妙だったのだ。──のぞみ号ができるまでは。
完全に対になっている音と光に、もうひとつ何かを組み合わせようとするのは無理がある。しかも、それは光より速くなければならない。だから、仕方なく「のぞみ」などというぼんやりしたネーミングになってしまったのだ。
それを考えると、自分の番組で三姉妹の名前を「のぞみ」「かなえ」「たまえ」にした萩本欽一のセンスは秀逸だと思う。
いかん、また逸れてしまった。東海道新幹線で言うと、僕はのぞみじゃなくてスーパーひかりで良かったんじゃないかなと思う。これなら少なくともスーパーひかり>ひかり>こだまという速さの序列は明確である。
で、今は日本のあちこちに新幹線が走ってしまって、しかも、それぞれの新幹線でのぞみ>ひかり>こだまみたいな速さの違いがあって、でも、名前を見ただけでは区別がつかないというのは、うーむ、もう少しなんとかならないものかな、と思ってしまう。
実は今日改めて調べてみて、こんなにたくさんあったのかと驚いてしまった。
ネーミングの観点はいろいろで、「かがやき」とか「やまびこ」とかいうように、明らかに「ひかり」と「こだま」の向こうを張ったものもある。新潟に行くから「とき」とか那須高原だから「なすの」、秋田だから「こまち」みたいな地域の名産や特性を織り込んだものもある。あるいは在来線から取ってきた名前もある。
でも、大事なのはどっちが速いかを知らしめることではないだろうか?
だって、ひかり号で鹿児島まで行こうとしても走っていないわけだから、間違って切符を買うおそれがない。それに対して、みずほとさくらではどっちが速いかまるで分からないから、こちらは買い間違える可能性がある。
鳥の「はやぶさ」より風の「はや」てのほうが速そうだと思って切符を買ったら逆だった、なんてことも起きるだろう。
それを考えると、例えば青森行きならりんご号とスーパーりんご号、新潟行きならおこめ号とスーパーおこめ号みたいな発想のほうが、情緒はなくなるが分かりやすい気がする。
ことほどさようにネーミングというのは難しい作業だ。だからこそ楽しいのだけれど。
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