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Sunday, October 27, 2019

映画『楽園』のパンフレットから

【10月27日 追記】 昨日観て昨日書いた記事の続き。この文章はネタバレ、と言うか、映画の結末部分に触れているので要注意。

映画の最後のほうに、現在の紡(杉咲花)が青田のY字路で豪士(綾野剛)が紡の同級生・愛華の後を追って歩いて行くのを眺めているシーンがある。

愛華の失踪事件は12年前であり、その疑いをかけられた豪士も既に死んでいるが、それを眺めているのは現在の紡──という幻視っぽいシーンである。こういう構造にしたことには大きな意味がある。

瀬々敬久監督もパンフレットで語っているように、小説であれば過去のことは過去形で、現在のことは現在形で書けるが、映画の場合は全て眼前で現在形で進行してしまう。だから、ここに眺めている現在の紡を配置しなければ、それは事実という位置づけの映像になってしまう。

つまり、映画も終盤にさしかかったところで、「事実はこうだったんですよ。誰からも無視されていた豪士が愛華に声をかけられて花の飾りをもらい、そのあと豪士は愛華のあとをつけていったんですよ」という種明かしをすることになってしまう。

ところが、それを見ている紡がいることで、これは本当のことなのか幻想なのか、途端に分からなくなってしまう。いや、仮にこれが事実であったとしても、描かれているのは豪士が愛華の後ろを歩いているだけの映像であって、その後豪士が愛華を殺したかどうかには全く触れていない。

パンフレットによると、このシーンは現場であとから脚本に差し込まれたのだそうで、撮影も中盤に差し掛かったところだったので杉咲花は大混乱し、監督に「豪士はやったんですか?」と問い質したらしい。

杉咲花は脚本をもらった段階でも、紡が豪士に抱いている感情について「LOVE なのか LIKE なのか?」と監督に訊いたとのこと。そして、いつもはカメラマンといろいろやり取りすることが多いのに、今回撮影の鍋島淳裕とはコミュニケーションを取る回数が少なく、寂しさを抱えて現場にいたと言っている。

これを読んで、なるほど、杉咲花という女優はそんな風に会話をしながら演技を組み立てて行くタイプなのかと思った。

杉咲の質問に対して監督は、LOVE なのか LIKE なのかについては「あまり決めないほうが良い」と言い、豪士がやったかどうかについては「やってないよ!」と言ったと書いてあるが、これはそのまま鵜呑みにしないほうが良いと僕は思う。

あくまで杉咲花に対しては、「やってないと思って演じなさい」という指示を出したということだと思う。

事実、佐藤浩市は同じくパンフレットのインタビューの中で「僕としては殺したと思ってるんですけどね」と言っていて、そういういろんな解釈がグラグラ揺れる上でこの映画は成立しているのだと思う。

これが瀬々組3本目の出演作となった佐藤浩市は瀬々監督とはいつもあまり言葉を交わさないと言っていて、この辺りは杉咲花と対照的で面白い。

同い年なので、「同じ時に同じテレビなり新聞なりを見たり読んだりして、世の中の事象を体感してきているので、みなまで言わずとも捉え方が近いものがある」と彼は言う。

他にも彼のインタビュー部分では、「観る人がみんな、『ああ、わかる。原因はこれだよね』と頷くような、わかりやすさを描くことは責任をもって避けなくてはならない」とか、『楽園』が正式タイトルになったことを知って「『なんて残酷な響きなんだ』と思ったと同時に、そこで『これだ』って、ポンって抜けられた」など、非常に感慨深いコメントが多い。

僕が映画を観ると必ずパンフレットを買うようになったのは、スタッフ/キャストを記録するためである。ただ、インターネットができてからはネット上で情報が拾えるので、昔ほどの必需品ではなくなったのも確かではあるが、しかし、こんな面白い記事が読めるのであれば、やはりパンフレットは書い続けようと思う。

そう言えば原作者の吉田修一が「瀬々さんは感情が臨界に達する瞬間は敢えて外すんだな」「普通なら、誰かが誰かに殺意を抱き、殺してしまう瞬間を撮るけれど、瀬々監督はそこを描かない。監督のオリジナル作品はどれもそうで、感情が臨界点に達する2歩手前で止まる感じ」と評しているのも面白かった。

描かないことで描かれる部分もあるのである。

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