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Sunday, September 22, 2019

映画『葬式の達人』

【9月22日 記】 映画『葬式の達人』を観てきた。

僕は大阪人ではあるが、大阪府立茨木高校の卒業生ではない。そして、「イバ高」卒の文豪・川端康成の愛読者でもない(多分、1作か2作しか読んでいない)。目当てはひたすら前田敦子である。でも、一方で、大阪人として仄かな親近感を覚えたのも確かである。

監督は樋口尚文。僕はあまり知らなかったのだが、映画評論家としては夙に有名で、長編映画の監督もこれが2作目、そもそもは電通のクリエイティブ・ディレクターとしてたくさん CM を作ってきた人だそうだ。

舞台は茨木高校。卒業生で、今は母校の野球部の監督をしている豊川(高良健吾)の前に、かつてバッテリーを組んでいた吉田(白洲迅)が現れる。

吉田は当時のエースで、高校野球の予選大会では決勝まで進んだが、試合中に怪我をして退場。そのまま腕が動かなくなり、野球をやめ、どこかに行ってしまった。海外に行ったという噂だが、もう何年も消息がなかった。

その彼が現れたと思ったら、突然交通事故で死んでしまう。その知らせを聞いてかつての同級生が集まってくる。

進学校ということもあって、今ではみんなエリート・サラリーマンだったり、弁護士だったり、府会議員だったり。そんな中で雪子(前田敦子)は木造アパートで息子と暮らす、工場務めのシングルマザーである。

多分ここまでは書いて良いと思うのだが(ネタバレ絶対御免と言う人はこの先は読まないで)、実は雪子の子供の父親は吉田である。

葬儀場が混んでいて却々手配がつかない中、吉田の最大の理解者だと自負する、大変おせっかいな豊川の提案で、吉田の遺体をみんなで母校に運んだり、そこに坊主を呼んだり、その後葬儀屋と喧嘩して追い返してしまったり、ハチャメチャになってくるのだが、みんな結構当時の思い出に浸って楽しんでいる。

観ていてびっくりするのは、一つひとつのカットが猛烈に長いこと。据え切りのカメラで役者たちは長いやり取りをさせられる。これが実に悪くない。

脇には名のある役者、演技力のある役者を何人か配しているが、同級生たちを演じているのは、前田敦子と高良健吾を除くと、あまり顔も売れておらず、それほど上手くもない。だから、当然この2人に映画の出来の命運がかかってくるのだが、その2人の大阪弁が、生粋の大阪人からすると微妙に気色悪い。

そこはちょっと困ったところである。

しかし、このストーリーは川端康成の数編の短編小説から題材を取ってアレンジしたと言うから、この構成力はまったくもって見事としか言いようがない。ちなみに脚本を書いたのは茨木高校出身で、本作のプロデューサーでもある大野裕之である。台詞回しも大変巧い。

ドラマは雪子が吉田の遺体の前で、息子に「実はこの人があなたのパパだ」と明かす辺りから一気に転がり始める。そして、高校時代の生活や行事の思い出話や、人それぞれの記憶違いとか、突然怪談的に展開するエピソードなど、いろんな要素を上手に編み合わせて進んで行く。

ああ、川端康成って、こういう幻想譚めいたものも書いていたんだなあと、あまり読んでこなかった僕は認識を新たにした。

しかし、それにしても前田敦子ってやっぱり飛び抜けて良い役者だと思う。パンフレットを読んだら、そこに彼女の代表作として挙げられている 10本の映画を、僕は全部観ていた。やっぱり僕は前田敦子が好きなのである。

やまだないとによる劇中漫画と上野耕路による音楽がとても心地良く、印象深かった。良作である。

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