« 飲める水道水 | Main | HTB『チャンネルはそのまま!』 »

Thursday, September 19, 2019

Netflix 『全裸監督』

【9月19日 記】 『全裸監督』全8話を見終わった。これを見るために一旦は退会した Netflix に再入会した。

面白かった。よくできていた。ただ、周りのみんながあまりに「すごい、すごい」と騒ぐのでどんなにすごいのかと思ったが、別に度肝を抜かれるようなものではなかった。

日本人をモデルにして、日本を舞台に、日本の脚本家が脚本を書き、日本の俳優が出演し、それを日本の監督が演出したわけだから、基本的には他の日本のドラマと根本的に違うというようなものにはならない。

総監督や監督はそれなりに実績のある、名の通った人たちだが、名前を聞いてびっくりするような人ではない。

例えばもしもこれを是枝裕和が監督したと言うのであれば、それを聞いただけでびっくりするし、多分もっとびっくりするものができたと思う。ま、是枝監督は撮らないだろうから、例えば廣木隆一とか園子温とか冨永昌敬とかが撮ったらもっともっと面白かったかな、とは思う。

いや、だからといって、この作品を貶す気は全くない。最初に書いたように、面白かったし、よくできていた。お金がかかっているのも判った。こと性行為に関しては地上波テレビではできない表現をしていたのも確かだ。そして、全てを性産業の立場に立って、性産業の側から描いているのが小気味よかったし心地よかった。

新宿歌舞伎町の入り口で、当時全盛を極めたテレクラの勧誘音声「入会金無料!1時間はっぴゃくえん!」というのが聞こえてきて、おお、そうだったとめちゃくちゃ懐かしくなった。時代考証やセットの作りなどで、そういう細かな気配りが随所に見えた(おかしい点もないではなかったが)。

僕はレンタルのアダルトビデオというものにはあまり親しまなかったので、村西とおる監督の作品というのは多分一作も見たことがない。ただ、テレビにはよく出ていた人なので、あの特徴的にクソ丁寧な喋りには記憶がある。かの有名な駅弁ファックについてはもちろん知ってはいる。

黒木香もまたしかりで、彼女の出演作品を観たことはないが、テレビで彼女の作品の一部(まさに、あの笛を吹いているところw)が紹介されたのを観た記憶はあるし、テレビ出演を通じて、時代の寵児としての彼女はよく知っている。

山田孝之は本人に会った上で、のべつ幕なしに村西とおるのモノマネをするのはやめたと言っている。ただ、スイッチが入って切り替わる瞬間を大切にしたとのこと。外見的には村西とおるには似ていない山田孝之だが、ドラマの中でスイッチが入った後の村西ぶりは見事なものだった。

当然のことながら、業界で働くスタッフは男ばかりなのだが、その中にあって、まさに紅一点のメイク係を演じた伊藤沙莉である。彼女は僕の大好きな女優だ。彼女がほんとうに彼女らしい個性で演じたこの役が、そして、この役の存在自体が、ともすれば殺気立ってしまう画面を随分和らげたと思う。

そして、何と言ってもこのドラマの成功は黒木香役の森田望智の発掘だろう。黒木香の雰囲気を見事に纏った上で、生と性のエネルギーと飢餓感の両方を余すところなく演じきった。

どこまでが史実に基づいているかというようなことは大した意味がない(僕はいつもそんなことを書いている)。ただ、人間が描けているかどうかである。このドラマは村西とおるという男がたどってきた起伏を(いや、実際はたどっていないことも含んでいるのだろうが)しっかり表している。

続編が作られるそうだ。もう一度退会してまた再入会するか、それともこのままじっと待っているかは別として、続編が出たらやっぱり見るだろうな。僕は今さら村西とおるがどんなビデオを作っていたのか見てみたいとは思わない。ただ、村西とおるという人間には惹かれている。黒木香にも。

どうせなら、次はモザイクもぼかしもトリミングもない映像で見てみたいものである。ま、無理だろうけど──そう、それが日本という国なのである。昔から、一事が万事、それが日本という国なのである。このドラマのすごいところは、日本の、いつまで経っても変わらないそういう部分を描いているところであると思う。

|

« 飲める水道水 | Main | HTB『チャンネルはそのまま!』 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« 飲める水道水 | Main | HTB『チャンネルはそのまま!』 »