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Sunday, July 14, 2019

映画『いちごの唄』

【7月14日 記】 映画『いちごの唄』を観てきた。

客はそこそこ入っている。客層は広い。そして一人客が多い。──僕の経験上、こういう場合は割合期待できる。

最初は電子レンジの中で回るコロッケか何かを真上から撮った映像。その次は電子レンジの中から不完全に透けている扉越しに電子レンジを覗き込む主人公を撮った映像。──結構良い感じではないか。

峯田和伸の銀杏BOYZ の曲に着想を得て、岡田惠和が書いた小説を、岡田惠和が脚本化したもの。監督は映画初演出だがかつて日テレで岡田の脚本によるドラマを演出したことがある菅原伸太郎。峯田和伸は俳優として岡田の書いたドラマに何本か出演したことがある。

そういう人脈でできた映画だ。そういうわけで(なのかどうなのかは知らないが)新人監督の作品の割に脇役がかなり豪華である。

岸井ゆきの、清原果耶、泉澤祐希、恒松祐里、蒔田彩珠ら売出し中の若手が顔を揃え、原作の峯田和伸も坊主頭のラーメン屋役で出演し、麻生久美子や宮藤官九郎、それに峯田の人脈でみうらじゅん、田口トモロヲ、曽我部恵一らもちょい役で出ている(ラーメン屋の客だったとは気づかなかったが)。

舞台は環七と早稲田通りが交差する辺り。JR高円寺駅の北側。そこから環七をまっすぐ行くと西武新宿線の野方駅だ。主人公はコウタ(古舘佑太郎)。冷凍食品の工場で働いている。落ち着きがなく(ADHDかもしれない)人間関係が苦手。でも、心優しい青年。

そのコウタが高円寺の商店街で、中学時代の同級生でかつて憧れていた天野千日(アマノチカ、石橋静河)にバッタリ遭う。当時コウタは同級生の伸二と2人で密かに千日をアーちゃんと呼び、2人の女神と崇めていた。奇しくも今日は七夕、伸二の命日でもある。

コウタは中学の時の気持ちそのままで舞い上がって興奮が治まらないままベラベラ喋る。

冒頭からウルトラハイテンションで目をむいて過剰な演技をする古舘に対して、石橋静河が受けの演技をしている。これが巧い。古舘との対照、この何年間か彼女がどういう暮らしをしてきたかの暗示、そして、千日という人間を、詳細を語ることなく静かに観客に伝えてくる。

電話番号やメールアドレスさえ訊けないコウタが別れ際に勇気を振り絞って「また会ってもらえますか?」と叫ぶと、意外にも彼女は会っても良いと言う。ただし、「来年の今日、同じ場所で」。

それからコウタと千日は牽牛織女のように年に1回だけ逢う。この辺の展開が巧い。岡田惠和は2人の情報を小出しにして、上手に観客の興味を後半まで引っ張って行く。

持てるタイプの男じゃないので、却々恋は成就しない。辛い目にも遭う。でも、めげない。毎年カレンダーの7月7日に印をつけて、コウタは健気に生きて行く。

このヘンテコリンな男に対する家族ら(父・光石研、母・和久井映見、弟・泉澤祐希、弟の彼女・恒松祐里)の優しい接し方も非常に心地良い。伸二が育った孤児院の院長(宮本信子)も時に直情的だけれど暖かく若者たちを見守っている。

良い話である。最後は坂の上でコウタと千日が出会った瞬間に僕が予想した通りの結末だった(花言葉までは知らなかったが)。

主人公たちの故郷の坂道や畑を背景にしたカメラワークもとても優しくて綺麗だった。

掘り出し物と言って良い映画ではないかな。ただひとつだけ、清原果耶が長じても石橋静河にはならない気がしたが(笑)

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