「キネマ旬報」2月下旬号(2)
【2月8日 記】 さて、今年もキネマ旬報ベスト・テンの集計表を見ながら、毎回やっている分析の遊びをします。
キネマ旬報ベスト・テンはそれぞれの審査員(今回の邦画部門だと 60名)が1位から10位までを選び、1位には 10点、2位には9点、3位には8点、…、9位には2点、10位には1点が割り振られて、その合計点で順位を決めています。
これを私は毎回分解して遊んでいます。どうやるかと言えば、ある映画の総得点をその映画に投票した審査員の数で割ってみるのです。そうすると、同じ 150点獲得の映画でも、一方は
- 合計150点=30人×平均5.00点
他方は
- 合計150点=20人×平均7.50点
となったりします。これで映画がどのような受け方をしたかを測ろうという魂胆です。(a) は多くの審査員に投票してもらっていますが、平均点自体は高くない。(b) は逆に投票数はそれほどでもないけれど、それぞれの審査員がつけた平均点がものすごく高い。
故に、(a) は多くの人に広く受けた映画、(b) は特定の人の心に深く刺さった映画だと考えられます。
これは統計学的に正しい手法ではありませんが、数多くの映画に広げるのではなく、投票結果の上位 10本ぐらいに絞ってやっている限りは映画の傾向をかなり正確に捉えているのではないかと思って、それで毎年こういうことをやっています。何よりもこういう遊びが楽しくて仕方がないからなんですが(笑)
さて、では、今回の分解結果を見てみましょう。
- 万引き家族
225点=34人×6.62点 - 菊とギロチン
218点=32人×6.81点 - きみの鳥はうたえる
212点=30人×7.07点 - 寝ても覚めても
205点=31人×6.61点 - 孤狼の血
126点=19人×6.63点 - 鈴木家の嘘
118点=23人×5.13点 - 斬、
113点=24人×4.71点 - 友罪
106点=16人×6.63点 - 日々是好日
103点=18人×5.72点 - 教誨師
88点=12人×7.33点
まず、概観としては、今年は審査員数が少ないこともあって、各映画の得点が低くなっています。そして、その影響もあって各映画の得点差も例年より小さくなっています。1位から4位までがかなりの接戦で、5位以下が随分引き離されているのも今年の特徴です。
ここのところ、「1位がぶっちぎり」か、あるいは「1位と2位がぶっちぎって接戦」かのどちらかの形が多かったので、こういう形は珍しいと思います。
その原因は1位から4位までが全て 30人超の審査員から票をもらっていることです。これは非常に珍しい現象です。去年は大勢の人に受け入れられた映画が多かったと言って良いでしょう。
この人数で目立つのは5位の『孤狼の血』の投票者の少なさ。逆に平均得点は1位の『万引き家族』と同等だったので、この順位に選ばれたということです。この映画については周りに褒めている人が多かったので、てっきり大勢に受けたのかと思っていたら全く逆でした。特定の人の思い入れ度に支えられてのランクインだったということが分かります。
逆に平均得点で見ると、10位の『教誨師』がトップという面白い結果です。次が3位の『きみの鳥はうたえる』。『教誨師』は観ていないので何とも言えませんが、『きみの鳥はうたえる』については非常に頷ける投票結果だと思います。
ちなみに、8位の『友罪』も平均点では『孤狼の血』と同点で、小数点第2位まで取ると『万引き家族』を上回っています。つまり、『万引き家族』は平均点では6番目なのに、支持者の多さで第1位に輝いたということになります。
これには僕も納得です。『万引き家族』は良い映画だとは思いましたが、決して是枝裕和監督の最高傑作だとは思いませんでしたから。キネ旬の審査員にも僕と同じ思いの人が多かったということではないでしょうか。
さて、今回はかなりはっきりと傾向が表れましたね。来年もやりたいと思っています。
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