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Sunday, January 20, 2019

映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』

【1月20日 記】 映画『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』を観てきた。

ジェローム・デイヴィッド・サリンジャーを描いた映画だというだけで観に行ったので、出来が良いのか悪いのか、評判が良いのか悪いのか全く聞いておらず、ストーリー等についても何の予備知識もなかったのだが、面白くて良かった。

『サリンジャー 生涯91年の真実』という評伝が原作になっているらしいが、この本は読んでいない。

今まで日本で作家サリンジャーが語られることが多かったのは圧倒的に書かなくなった(厳密に言えば「本を出さなくなった」)後のサリンジャーだった。書いている時のサリンジャーは、読者にとっては、恐らくホールデン・コールフィールド自身であり、あるいはシーモア・グラースやフランシス(フラニー)・グラースなどであったから、語る必要もなかったのだろう。

この映画では書いている時はおろか、書く前の(厳密に言えば本が出版される前の)サリンジャーを綿密に描いていて面白かった。

サリンジャーの小説では第2次世界大戦が何度か舞台になっているし、彼が実際に戦争に行っていたことも知っている、ただ、その時代の彼が描かれたことは大変興味深かった。

彼の作家としての生涯はその復員後に始まったと言っても良いだろう。

しかし、彼が世に出る前に彼を指導した大学教員であり編集者でもあったウィット・バーネットの存在も非常に大きい。ウィット役のケビン・スペイシーの好演もあって、彼とジェリーの関係が非常に良い話になっている。

ジェリーは変人だったと伝えられている。いや、ホールデンと同じく問題児だったという表現が一番しっくり来るのではないだろうか(「J.D. は何の頭文字?」と訊かれて「Juvenile Delinquent」と答えるシーンがおかしかった)。

その変人、問題児を正面から受け止めて対等に接してくれるウィットのような存在があったからこそ、彼の本は世に出たのである。この映画ではウィット以外にも戦争の PTSD に苦しむジェリーを支えたインド人宗教者の存在も描かれている。

彼らを描いたことによって、この映画はとても豊かなものになったと思う。

この映画ではニコラス・ホルトが演じるサリンジャーの視線が印象的に描かれていたと思う。酒場で可愛い女の子に目をつけるジェリー。ホテルのロビーや遊園地のメリーゴーラウンドで遊ぶ子どもたちを見やる優しい目。家まで押しかけてきた熱狂的なファンに怯えるジェリー。

そして、長い諍いの後、漸く和解したウィットと再び別れる時に、もうひとこと何か声をかけようとして躊躇しながらウィットの後ろ姿を見るジェリー。

良いシーンがたくさんある。良い映画になった。監督・脚本はダニー・ストロング。

でも、もしサリンジャーが生きていたら、彼はこの映画を観て激怒したのではないかと思う。そういう意味では、彼は死んで自由になったのだ。

どことどこ、と全てを明確に指摘することはできないのだが、この映画にはいくつかサリンジャーの小説の中から採ったと思われる台詞があった。その気持は分かる。だけど、実際のサリンジャーと彼の作品は同じではないはずだ。

でも、もうそんなことに肚を立てるサリンジャーはいない。あまり数多くない作品が残っているのみである。

言うまでもないことだが、この映画はサリンジャーの作品を1作でも多く読んでから観たほうが面白いと思う。読んだことのない人にはこの映画の良さは伝わらないかもしれない。

ちなみに、僕とサリンジャーの関わりについてはここに書いた。

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