« AMAZON MUSIC UNLIMITED | Main | 『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年』J.D.サリンジャー(書評) »

Sunday, December 09, 2018

映画『来る』

【12月9日 記】 映画『来る』を観てきた。

このタイトルのネーミングは、Stephen King の "IT" に通じる巧さがある。“それ”が何なのかは分からないが、でも確かに“それ”は存在して、確かに“それ”は“来る”のである。で、この映画の中では、その主語に当たるものは“あれ”と呼ばれている。

原作の小説は『ぼぎわんが来る』という題だったそうだが、ここから主語を削除したのは見事なアイデアだ。“来る”のが何なのか分からないわけで、そのほうがずっと怖い。

でも、僕が観たのはホラーだからではない。中島哲也監督だからだ。そして、映画が始まって怖い場面になった瞬間から、そこにあるのはまさに中島哲也監督ならではの映像美の世界だった。

血が美なのか?と言われるとちょっと違うと言う人もいるだろう。でも、それは、自分の血であれ他人の地であれ、ともかくそれが噴き出すのは怖いことなので美に結びつかないだけであって、実は一番身近にある強烈な赤色であり、それはやはり根源的に美であるように思う。

ここではスプラッタ的な美と、日本伝統の様式美と、そしてコンピュータによる幻想的な美の3つが合わさったような感じがあった。この壮大な仕掛けを、映像芸術と呼ばずに何と呼べば良いだろう?

事実この映画はホラーという枠に収まるものではないのだ。出演者のひとりである松たか子も言っている:「みなさんおっしゃることかもしれませんが、むしろ“あれ”の存在を通して人間を描こうとしているように、私には思えました」と。

そして、中島監督自身もこう言っている:「原作の小説を映画にしたいと思った理由は、登場人物が面白かったことに尽きます。この人たちを実写にしたらどうなるんだろう?と興味が湧きました」と。

ちゃらんぽらんで調子ばかりこいている若いパパ・秀樹(妻夫木聡)、小さい頃から母親に疎まれて育ち自分も子育てに自信のない香菜(黒木華)、そして2歳になる愛娘・知紗(志田愛珠)の3人家族のマンションに“あれ”がやってくる。

もちろん“あれ”がやって来るには、それなりの背景がある。

秀樹の友人の民俗学者・津田(青木崇高)、その知り合いのフリーライター・野崎(岡田准一)、その知り合いの霊能者・真琴(小松菜奈)、そして真琴の姉で最強の霊媒師である琴子(松たか子)、琴子の仲間である霊媒師・逢坂(柴田理恵)らがみんなで“あれ”に対処して行くのだが、それぞれにいろいろな過去やコンプレックスを抱えているために「みんなで一致団結して」というようなきれいな形にならない。

──そこがこの話の一番面白いところだ。

ピンクと金色のまだら染めの短髪と目の周り真っ黒なメイクに騙されて、映画が終わってキャストが出るまで僕は真琴役が誰だか判らなかった。でも、この新人女優、かなり行けるぞ、と思っていたら、なんと小松菜奈だったのでびっくりした。

めちゃくちゃ豪華なキャストだし、それぞれが巧すぎるぐらい巧い。だからこれだけ見事に中島ワールドを体現できたのだと思う。そして、クライマックスの一連の祈祷のシーンの凄まじさ!

最後まで観てもそれが何だったのか定かには分からない幕切れを不満に思う観客もいるだろうが、そもそも何だか分からないものを描いているので仕方がない、いや、だからこそそれが一番正しい描き方なのだ。

僕らはみんな何かに囚われて生きている。そして、その囚われのために、下手すると“あれ”は僕らのところにも来るかもしれない。

それぞれの人物が際立ったドラマであり、圧巻の映像芸術だった。そして、変な言い方だと思う人もいるかもしれないが、この映画は僕にとって強力なデトックスになった。

この映画の中には中島哲也監督の『下妻物語』以降の全ての作品の要素が入っていたと思う(そう、『パコと魔法の絵本』までも)。そういう意味でも、これは中島哲也監督の集大成であると思う。面白かった。描かれているものが深いので、余韻の深さも半端ない。

|

« AMAZON MUSIC UNLIMITED | Main | 『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年』J.D.サリンジャー(書評) »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 映画『来る』:

« AMAZON MUSIC UNLIMITED | Main | 『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる ハプワース16、1924年』J.D.サリンジャー(書評) »