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Tuesday, December 25, 2018

『昭和元禄落語心中』

【12月25日 記】 評判になって賞もいくつか獲ったらしい原作漫画のことは例によって何も知らずに、最初は MBS のアニメイズム枠でアニメになった第1期13話と第2期“助六再び編”12話を観て、物語の中心を貫く深い思想性に惹き込まれた。

画の素晴らしさもある。そして、稀代の名人とも言える八雲と助六という2人の落語家の対照の妙。それぞれの名跡の2代(あるいは3代)にわたる因縁めいた展開。恋と友情、孤独、そして落語への偏愛。その研ぎ澄まされた、完成度高く構築された物語世界に圧倒され、舌を巻いた。

そして、それを NHK が全10回のテレビドラマにした。録画したままかなり遅れて少しずつ観ていたのだが、この3連休でやっと最後まで追いつき、やっぱりこの見事な物語空間に取り込まれて何とも言えぬ感動に包まれた。

菊比古(後の八代目八雲、岡田将生)と初太郎(後の二代目助六、山崎育三郎)の2人が静と動、暗と明、熟考と軽挙、偏屈と人気者、と何を取っても対照的な水と油のような存在なのに、まるで漫才師のコンビのようにお互いの芸を高め合う、宿命めいた、魅力的な関係性ができて行くあたりのリアリティがすごい。

みよ吉(大政絢)も小夏(成海璃子)も、キャスティングの発表を聞いた時点ではちょっと違うような気がしたのだが、最終的に彼女たちはそれをしっかり自分の役にしていた。

与太郎の竜星涼も素晴らしかった。そして、一番見事だと思ったのは前半は黒々とした髪の毛で、後半は禿頭のカツラをつけて熱演した篠井英介の松田さんだった。

ひとつだけ難を言えば、老いてからの岡田将生の、特殊メイクは良いとして、喋り口があまりにワンパターンなのが少し引っかかりはしたが…(でも、やっぱり巧い役者ではある)。

そもそも僕がこの実写版を観たいと思ったのは、演出にタナダユキの名前があったからである。タナダユキの名前でどれほど客を呼べるのか知らないが、少なくとも僕は大好きな監督だ。鬱屈したもの、痛々しいものをちゃんとそのとおり描ける監督だと思う。

ただし、実際に見てみると、僕が見落としていなければ、タナダユキは初回と最終回だけで、その多くは清弘誠が演出していた。この名前には聞き覚えがある。かつて TBS の石井ふく子プロデューサーの下で“東芝日曜劇場”を数多く演出してきた人だ。

ひょっとしたらそれが良かったのかもしれない。重厚でオーソドックスで、しっかりと歴史観のあるドラマになった。羽原大介の脚本も非常にマッチしていた。

未だに余韻が去らない。観ていてうっとりするほどのドラマを久しぶりに見た気がする。

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