回顧:2018年鑑賞邦画
【12月23日 記】 今年も恒例の「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入ってほしい邦画10本」を選んでみた。
毎年書いていることだが、これは「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入ってほしい」という僕の個人的な願望(あるいは応援演説)であって、「入るであろう」という予想ではない。
今年の賞レースはきっとカンヌでパルムドールを受賞した『万引き家族』と、バズって大ヒットになった『カメラを止めるな!』と、樹木希林の遺作となった『日々是好日』のオンパレードになるだろうと思っていたのだが、既に発表された賞を見る限りはそうでもなくてちょっとほっとした。
僕もこの3本は選ばなかった。つまりこれらは「20位以内に入るであろう」作品ではあっても(いや、『カメ止め』は入らないかもしれないが)、僕が特に入ってほしいと思う作品ではないということだ。
今年観た邦画は長短編合わせて 68本──これは僕の生涯最高記録である。別に何かがあって増えたわけでもなく、たまたまそうなっただけのことではあるが。
その一覧を見たり自分の書いた映画評を読み返したりして選んで行ったら、13本が残った。そこから3本落とした結果が下記である。なお、これも例年通り、評価の高い順ではなく、僕が観た順である。
ちなみに落としたのは、『モリのいる場所』、『焼肉ドラゴン』、『億男』の3本だ。
誤解のないように書いておくと、これらは僕が最も高く評価している 10本ではない。キネ旬20位以内に入ってほしいという思い入れを反映した 10本である。
1)は吉田大八監督らしい素晴らしい映画だと思う。「他者」をテーマにした作品。受刑者6人を描き分ける構成がすごい。全般に画面は暗く、人間の暗い面を描いており、全編に漲る緊張感と不気味さはタダゴトではない。でも、その割には読後感が良いのが不思議な魅力である。
公開が早かったから賞レースでは不利だとは思うが…。
2)は行定勲監督の久々の大傑作だと思う。絶望的な設定の、とても暗い話だ。ひどく抑鬱的で暗澹たる世界を描いてはいるが、こんな暗い画面でありながら圧巻としか言いようのない、詩のように愛おしく、圧倒的な作品になっていると思う。
二階堂ふみってやっぱりすごい。
3)は斎藤工が監督ということでちょっと舐めていたのだが、観たらあまりによくできていて、我が身の不明を恥じた。父の葬儀に集まったとんでもないハズレ者たちから、自分が知らなかった父の実像を描くというアイデアが秀逸だった。
正直なところ、20位以内というのはちょっとハードルが高いかもしれないが、今後に期待できる監督だと思う。
4)は久しぶりに観た冨永昌敬監督作品。僕はそもそもこういうテーマの作品は大好きなのだが、登場人物一人ひとりに圧倒的な個性があって面白く、それを演じている役者がまた見事に嵌っていて非常に見応えがあった。
『きみの鳥はうたえる』の柄本佑も良かったが、この映画の柄本佑も魅力に溢れていた。今年は良い仕事をしたと思う。
5)も正直言って多分20位以内には入らないだろうとは思うのだが、何と言っても僕は飯塚健監督が好きなのだ。会話が良い。役者が巧い。そして、何でもないようなことを喋っているようでいて、実に不思議に含蓄があり、哀愁がある。
主演が渋川清彦というのが渋いではないか(笑) そして、共演の伊藤沙莉に、ここのところ「来てる」感があるのは、ファンとして嬉しい。
6)青春恋愛映画は高く評価されないから、多分これもダメだろうなあ(笑)でも、めちゃくちゃ面白かったのだ。浜辺美波のコメディエンヌとしての才能が開花した作品だ。吉田恵里香によるリアルでキュートでユーモアに満ちた台詞に支えられて、月川翔監督のポップな一面が炸裂した。
月川監督では『響 -HIBIKI-』も良かったが、僕はこちらを採った。
7)は本当にひどい映画である。そして、吉田恵輔監督の金字塔と言える作品である。コメディかと思ったら途中からスプラッタにトーンが一変するいつもの吉田監督の作りで、観ている者の心がえぐられる感がある。
主演の安田顕もすごかったが、何と言っても木野花が怪演と言うべき出来だった。
8)は『エウレカセブン』の前作(劇場版3部作の1本目)があまりにテレビ版オリジナルと違っていたのでちょっと興醒めして、この2本目は見るのをやめようかと思っていたのだが、観て良かった。これを見ると前作がオリジナルと違うということにも改めて納得感が出てくる。非常に哲学的な深い作品。
ラストのチェイス・シーンをはじめとして、画作り的にもクラクラするほどの傑作である。
9)はこれまた山下敦弘ワールドとしか言いようのない山下敦弘監督作品。よくまあこんな設定考えたなあというとんでもない話を、山田孝之、荒川良々、佐藤健の3人が飄々と、しかし切実に演じている。これは他の監督にはまず撮れないと思う。
僕は山下監督の言う「この映画に乗れる人」でありたいなと思った。
10)はまさに中島哲也監督の集大成。圧巻の映像芸術だった。ホラーだと思い込んで観に行った人は少し肩透かしを食ったかもしれないが、これは決してホラー映画という枠に収まる作品ではないのである。そこが解らないと評価できないだろう。描かれているものが深いので、余韻の深さも半端なかった。
役者もみんな素晴らしかったが、とりわけ小松菜奈と柴田理恵の印象が深い。
以上、今年は特に、我ながら偏向の度合いがきつい気もするが(笑)
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