発車メロディ
【11月19日 記】 電車の発車メロディ(発車ベルとも言うらしい)は、恐らく鉄道マニアの間では既に語り尽くされた話題であるか、あるいは逆に、誰にも語り尽くせないくらいの話題であるかのどちらかだと思う。
普段ぼうっと聞いているが、考えてみると日本にはいくつの駅があって、そのうち発車の際に音楽を流している駅がいくつあって、そこで使われている楽曲は何曲あって、そのうち何曲がオリジナルで何曲がどこかのスタンダードを持ってきたんだろう、などと考え始めるときりがない。
大阪にいたときの話だが、僕はやしきたかじんという人が歌手としてもタレントとしても嫌いだったので気がつかなかったのだが、ある日どうやらJR大阪駅で流れているのは『やっぱ好きやねん』のサビの出だしであると気づいた。
ファンであれば採用された直後に気がついただろうが、僕は随分経ってからだった。それで、そもそもやしきたかじんが好きではないので、「あーあ、大阪駅はこんな人の作品をテーマに選んでしまったのか」とがっくりした記憶がある。
東西線の日本橋駅のように『お江戸日本橋』などという古典的な作品を採用しているところもあるが、それはあまりに当たり前である。
興味があるのは、(そういう意味ではJR大阪駅の場合もそうなのだが)オリジナルでも古典でもなく、何かを由縁としてヒット曲を使っている場合だ。
銀座線の神田駅を通過する時に美空ひばりの『お祭りマンボ』が流れているのを聞いて、なるほど「神田明神 → お祭り」という発想かと、それは至極当然に受け止めたのだが、こんな古い流行歌を持って来るしかなかったのか、とか、そういう発想なら浅草駅もこの曲で良かったのではないか、などといろいろ思った。
余談になるが、発車メロディは駅に対してユニークではない。つまり、同じ曲が流れている駅が複数ある、ということについては最近知ってちょっと驚いた。
今年のある日のことだが、東横線の渋谷駅で安室奈美恵の『Hero』を耳にして、これは一体「いかなる草のゆかりなるらむ」と思った。
この曲と渋谷が(しかも山手線でも銀座線でも半蔵門線でも井の頭線でもなく、東横線の渋谷が)一体どういう関係にあるのか!? ──で、結局どういう関係であったのか一度は調べたのに忘れてしまったのだが、どうやら期間限定であったようだ。
今年は安室奈美恵の引退という大きなイベントがあったので、他にも安室のこの歌や他の作品を、いろいろ理由を探して期間限定で採用した駅がいくつかあったようだ。
さて、僕が今までで一番舌を巻いたのは東西線の九段下駅である。これは初めて聞いた時に思わず唸ってしまった。爆風スランプの『大きな玉ねぎの下で』である。
今となってはこの関係が分かる人はどれくらいいるのだろう? でも、これは紛れもなく九段下の「ご当地ソング」である。『伊勢佐木町ブルース』とか『長崎は今日も雨だった』なんかよりも、遥かにピンポイントのご当地ソングである。
こういう知恵とセンスに、僕は敬意を表したい。
そんなことを思いながら、僕はいろんな駅を通り過ごしている。
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