『シングル&シンプル マーケティング』本間充(書評)
【10月22日 記】 こういう書き方をすると大変失礼だが、最新のマーケティング本だと思って読んだら、最後まで読んで「なぁんだ、当たり前のことしか書いてないじゃん」という感じの本なのである。
そして、それこそがまさにこの本の言わんとするべきことなのだと思った。何故こんな当たり前のことがちゃんとやれないかと言えば、それは著者が言うように、
「過去の成功体験が大きいマーケターには、理解しにくい時代」になった(p.31)
からなのである。
この本には難しい概念図やお題目めいた箇条書き、偉そうに公式めいたまとめなどがほとんど出てこない(唯一、「シングル&シンプル マーケティングの1D2P1V」というのがあるが)。ここにはただ、
現在のマーケティングでは、お客様、ターゲットの理解が、非常に重要なプロセス、活動になっていることがわかるでしょう。(p.67)
というような、解りやすい表現が、しかし、じゃあ具体的にはどうすれば良いの?と訊きたくなるような文章が並んでいるだけなのである。
もちろん、
シングル&シンプル マーケティングは一言でいうと今までのセグメンテーション、ターゲティング型のマーケティングに、LTVの考え方を組み合わせ、考え方を拡張したマーケティングです。(中略)このシングル&シンプル マーケティングでは、そのグループごとに、どのように中・長期に付き合うのかを理解しながら、継続的な関係を築くことが目標です(p.133-134)
社内にデータ・マート、つまり会社や組織として、データを一か所に集めた統一のデータ集積所を作り、永久的にデータを保管する仕組みを作ることです。(p.215)
といったアドバイスめいたことも書かれているが、具体性としてはこの辺りが最大値である。この本はあくまで考え方のエッセンスを説いた本であって、初心者のマーケターがこれを片手に何か具体的な仕事を進めるマニュアルではないのである。
そして何よりも、
シングル&シンプル マーケティングでは、お客様との対話(Dialogue)が、何よりも重要です。そして、もう一つ重要なのは、「人」らしいマーケティングの復活なのです。(p.223)
実は、このシングル&シンプル マーケティングの最大のヒントは、昭和の時代に残っていた「御用聞き」販売です。(p.226)
とは、何とやさしい表現だろう。読む人が理解するに易しく、顧客に対する態度としてもとことん優しい。
それをどう実践して行くかは、マーケターの力量によるのだろうけれど…。
僕は共感を覚えた。多くのマーケターにこの本を読んでほしい。
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