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Tuesday, October 16, 2018

『人魚の眠る家』試写会

【10月16日 記】 抽選に当たって映画『人魚の眠る家』の試写会に行ってきた。

僕は文章の書き手としては東野圭吾を評価していない。何冊が読んでみたけれど、結局もう読むことはなくなった。ただ、この作家の小説はドラマ化/映画化すると意外に良い作品になることが多い。

多分、物語の初期設定と基本的なストーリーの組立て方は良くできていて、逆に人物の描写は薄いので脚本家が自由に肉付けして行きやすいのではないかと思う。

で、結論から先に書くと、この映画は非常に良かった。

脚本を手がけたのは篠崎絵里子。映画の脚本は久しぶりだと思うのだが、これは彼女のベストになったのではないだろうか。言葉の選び方が見事に適切なのである。

周りが見えなくなってしまった時に言いそうな乱暴な台詞。カッとしてつい口走ってしまいそうな不適切な表現。理屈も何もあったもんじゃない身勝手な言い分。逆に精一杯自分を抑えて相手の気持ちを鎮めるのに適切な言葉…。

この映画は一応医療ドラマ風の体で始まる。だが、原作が東野圭吾で監督が堤幸彦となると、単に医療現場の葛藤や病気の子供を持つ親の心持ちを描くだけで終わるはずがない。そう思いながら観ていると、元から怖い設定が、どうなるかどうなるかという感じで、どんどん怖くなる。

離婚寸前ながら文字通り「子はかすがい」で繋がっている播磨和昌(西島秀俊)と薫子(篠原涼子)の夫婦。ある日、名門小学校の受験を控える娘の瑞穂(稲垣来泉)がプールでの事故で脳死状態になる(脳死の検査は受けていないが)。

担当医(田中哲司)の説明を聞いて、一旦は脳死を受け入れて娘の臓器を提供しようとまで思ったが、ちょっとしたきっかけから夫婦は脳死のまま娘を生かしておくという選択をする。

幸いにも夫の和昌は父親(田中泯)が起こした医療ロボットなどを開発する会社の2代目社長である。会社の部下の星野(坂口健太郎)の知恵を借りて娘にまず人工横隔膜をつける手術を施して自宅療養が可能になる。

星野の研究は、障害のある患者が自分の体の代わりにロボットのアームなどを使うのではなく電気信号を与えることで自分の筋肉を動かせるようにしようというもの。その話を聞いた和昌は彼の研究を自分の娘に適用できないかと星野に相談する。

その辺りからみんなが少しずつ狂い始める。それがめちゃくちゃに怖い。異常者が暴れまわるホラーのような怖さとは全然違う。誰もが嵌りそうな陥穽があまりにリアルに描かれているのが怖いのだ。

薫子はとにかく瑞穂が目を覚ますという奇跡だけを信じて周りが全く見えなくなる。薫子の母の千鶴子(松坂慶子)は、自分がついていながら孫が事故に遭ったことへの自責の念でがんじがらめになる。和昌は会社の仕事と娘の治療の見境がつかなくなってしまう。

星野は元々真面目で研究熱心な男だが、今まで日陰ものだった自分の研究が社長の目に留まった嬉しさから、休日も返上、恋人の真緒(川栄李奈)もほったらかしで異常なほどのめり込んでしまう。

とにかく篠原涼子が壊れて行くところがめちゃくちゃに怖いのだが、上で括弧書きで書いた役者の誰が主演/助演/男優/女優賞を獲っても全く不思議ではないくらい、それぞれの演技が素晴らしい。

僕は本来オーソドックスな映画よりもちょっと癖のある、むしろトリッキーな作品のほうが好きなのだが、いやいや、これには参った。

僕は、いろんなイベントの際に渡されるアンケート用紙に記入することはほとんどない。そもそも書く気にならないし、それが積み重なって今や主義として書かないと言っても良い。

それが今回はついつい書いてしまったほどである。それほどよくできた映画だった。堤幸彦らしいケレン味はほとんどなかった。

ただ、アンケートの設問の中に、「どのくらい泣けましたか?」みたいな愚問があったので、「泣けることを売り文句にするのは嫌いです。それはさもしい宣伝です」としっかり書いておいたけれど。

良い映画かどうかは泣けるかどうかではない。まずは人間がしっかり描かれているかどうかである。そして、その人間たちが勝手に立ち上がってストーリーに加速度がついて転がりだすかどうかである。

この映画には崖から岩が転げ落ちるような勢いがあった。原作は知らないが、見事な映画化であることは間違いない。

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