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Saturday, September 22, 2018

映画『食べる女』

【9月22日 記】 映画『食べる女』を観てきた。

いやぁ、ものすごくよく練れた脚本。この映画の中身に関連付けて喩えるなら、ミンチと野菜を手で丹念にこねたワンタンの具みたいな、いや、違うな、もっと繊細な和食の感じ。

原作も企画も脚本も筒井ともみ。僕が初めて彼女の脚本の映画を観たのは 1985年の『それから』(森田芳光監督)。あのときはなんだか変わった本を書く人だと思った。最後に観たのは 2006年の『ベロニカは死ぬことにした』。あれも変わった映画だった。

今回は初めてオーソドックスに彼女の力量を知った気がする。この映画にも、多少浮世離れした人は出てくるが、みんなとても魅力的なのである。

メインの登場人物は女性だけで8人。そのうちの4人については、それぞれの恋や性の相手が5人出てくる。それに関係ない男が一人。2冊の原作小説ではバラバラの話だったのを、映画化を前にひとつにまとめたらしい。

それだけに入り組んだ関係なのだが、この8人が8人ともしっかりと描き分けられてくっきりとキャラが立っている。ドラマの中でどのひとりも無駄になっていない。会話が自然で、しかも、良い台詞が満載である。

「おいしいごはんを食べている時といとしいセックスしてる時が、いちばん暴力とか差別から遠くなる」

あ、そう言えば、他にもセックスと食事を並べて描いた映画があったなあと思うのだが、それが何だったか思い出せない。

主人公の雑文筆家兼古本屋の餅月敦子(トン子)を演じた小泉今日子が見事なおばさんぶりである。事実映画の中で小学生に「おばさん」と呼ばれる。それに何の抵抗もなく「おばさんもね…」などと返す堂々たる、そしてキュートなおばさんである。

「小学生に『ひとりでさみしくないの?』と聞かれてちゃんと説明するトン子という人が好きです」と小泉今日子も言っているが、そういうトン子の魅力がちゃんと伝わってくる良い演技だった。

そんなトン子だから、一人暮らしの彼女の家には、彼女を慕って様々な世代のいろんな人間が集まってくる。

幼馴染で小料理屋の女将の美冬(鈴木京香)。トン子の担当編集者のドド(沢尻エリカ)。

ドドの飲み仲間で制作会社APの多実子(前田敦子)、料理ができず夫(池内博之)に棄てられて路頭に迷っていたところを美冬に助けられ、トン子の家に居候しながら美冬の店で働くことになるマチルダ(シャーロット・ケイト・フォックス)。

近所の好奇心旺盛な小学生・由有羅(宇田琴音)とミドリ(鈴木優菜)。そして、ミドリがどうしてもトン子のところで住みたいと言い出して、ミドリの弟も連れて引っ越してきた耳のモデルツヤコ(壇蜜)。

それとは別にドドと多実子の行きつけのバーの店員の珠美(山田優)。彼女はオーナー・淳(眞木蔵人)の元妻という微妙な関係でありながら毎日そこで働いている。そして、その店でいつも酔いつぶれているあかり(広瀬アリス)。

同じくその店の常連で小学校教師(そこには由有羅とミドリも通っている)の白石(勝地涼)。

他にもまだいる。あかりと行きずりの関係を結ぶサラリーマン(笠原秀幸)。あかりが初めて恋をする取引先の社員(小池徹平)。ツヤコの元夫で今は別の家族を持つトキヲ(ORANGE RANGE の RYO)。ドドと偶然出会い、いつしかドドの自宅に料理を作りに来るようになるタナベ(ユースケ・サンタマリア)。

これだけたくさんの人物が登場しながら、話は非常にまとまりが良い。料理の話と恋(あるいはセックス)の話が具材とソースのようにうまく絡み合って、しかもすっきりと後口が良い。そこはまさに和食の和である。

どの人物も卓越した人物ではなくむしろ凡庸なのだが、でも、極めて個性的で、すごく好感が持てる。沢尻エリカと広瀬アリスがダメなところをさらけ出しながら逆に素敵な人物を演じている。ああ、そうか、この作品で前田敦子は勝地涼と結ばれたんだな、とそんなことまで祝福したくなる、とても良い映画だ。

監督は元TBS の生野慈朗。筒井ともみとは昔なじみだという。そして、筒井ともみと小泉今日子はこれまた旧知の仲だという。そういう相性の良さもあるのだろうが、出ている俳優が悉く良い演技をしているのは、やっぱり演出の力量なのだろうと思う。

料理も大変きれいで美味しそう。食べるシーンもとても良い。撮影は柳島克己。北野武の映画をたくさん撮ってきた人だ。

幸せになれる映画である。

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