内田けんじと上田慎一郎
(『カメラを止めるな!』と『運命じゃない人』をご覧になっていなくて、これから観ようかと思っておられる方には、少しネタバレがあるのでお勧めしない記事です)
【9月15日 記】 上田慎一郎監督の次回作は『カメラを止めるな!』と同じ手を使って同工異曲を奏でるわけにはいかないだろうな、と思っていたら、内田けんじ監督の『運命じゃない人』(2005年)を思い出した。
あの映画は PFFスカラシップの資金で作られ、いきなりその年のキネ旬5位に輝いた。脇役として売れてくる前の中村靖日が主演だった。
今みたいに映画館の上映スケジュールの編成が柔軟でもなく、シネコンも少なかったから「200館に拡大」みたいなことにはならなかったけれど、僕が観た渋谷のユーロスペースは大入り満員で、国内で8つの映画賞を受賞して、カンヌでも上映された。
あの映画は3人の視点で3回繰り返して描かれた。2人目の視点で描かれた時には、1人目の人物が見ていなかったことや、そもそも1人目の人物がいなかったシーンが描かれていて、「なるほど!そういうことだったのか」と観客は膝を打つ。
その辺の構造は『カメラを止めるな!』と同じだ。そして、『運命じゃない人』がすごいのは、観客が充分楽しんだあとで今度は3人目の視点が出てくるところだった。
内田けんじはその成功を経た後、大泉洋や佐々木蔵之介、堺雅人、常盤貴子らをキャスティングして『アフタースクール』(2008年)を撮り、そのあと堺雅人と香川照之で『鍵泥棒のメソッド』(2012年)を撮っている。
どちらもめちゃくちゃ面白かった。内田けんじはデビュー作からとにかく言葉のセンスに長け、台詞運びがめちゃくちゃに巧い脚本家だった。
『アフタースクール』と『鍵泥棒のメソッド』にもトリック的な要素はあった。でも、それだけで押して行くわけにはいかないと内田監督も気づいていたのだろうと思う。だからこそ彼はその後2本の映画が撮れたのだと思う。
ところがその後、内田けんじは1本の劇場用映画も撮れていない(本人が「もう映画はいいや」と思っているのだったらそれで良いのだけれど)。
上田慎一郎も前途多難だろうな、と思った次第。
でも、まずは内田けんじの新作が観たい。
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