『From T』吉田拓郎
【9月9日 記】 僕もまたご多分に漏れず最近CD を買うことは少ない。本は本棚一杯分しか、CD は CDラック一杯分しか持たないと決めたこともあり、本は電子書籍、音楽はダウンロードになってきている。
しかし、吉田拓郎とムーンライダーズだけは仕方がないと思っている。どうしても“形”がほしいのだ。形あるものを所有したいのだ。
そういうわけで、吉田拓郎の3枚組『From T』を買った。発売の日に注文しようとしたら、Amazon は売り切れで在庫なし。買い占めたのか、買い占めた人から買ったのか、Amazon のページで他の業者が販売しているものしかない。
中には定価より高いものもあり、それを買うのも癪に障るので、Amazon に在庫が入るのを待って買った。
Disc1 と Disc2 はレーベルの枠を超えて「吉田拓郎が自ら厳選した"究極のプレイリスト27曲"」なのだそうで、ほとんど知っている曲だ。
『恋の歌』は絶対入っているだろうなと思ったら案の定入っている。世間では代表曲だとあまり思われていないだろうけれど、僕も発表当時(つまりはエレックレコードの時代だ)から大好きな歌だ。
あと『春だったね』と『マークⅡ』(これはライブ'73のバージョンだ)も予想通り。『金曜日の朝』とか、『戻ってきた恋人』とか、『シンシア』、『風の街』、『元気です』なんかもやっぱりね、という感じ。
少し意外だったのは、『春を待つ手紙』(しかもこれが Disc1 の1曲目だ)、『水無し川』、『夏休み』などは、ああ、こういうのを拓郎本人が選ぶのか、という感じで、非常に感慨深い。
こうやっていろんな時代の曲を一気に聴くと、拓郎節の特徴である、曲の途中で何度も長調と短調を行ったり来たりするメロディの特徴が際立ってくる。初期に多用した Ⅳ ⇒ Ⅳm ⇒ Ⅰ というケーデンスから、もう少し発展して(こういうのもモーダル・インターチェンジと言うのかどうか知らないが) Ⅳm が突然単独で出てきたりする。
この心地よいような心地悪いようなメロディこそが拓郎節なのである(笑)
そして、ものすごく強く感じるのは、拓郎の身体にしみついている8ビートのリズム。もちろん3拍子の曲もロッカバラードもあったりして全てが8ビートではないのだが、どんなリズムであれ2拍と4拍が強い8ビートが底にあるのを感じてしまう。
それから Disc3 は拓郎の自宅を中心として作成されたデモテープ。コンピュータ機器の発達ということもあるが、今ではデモテープと言えどもこんなに完成度の高いアレンジが施されているのかと、ただただ驚くばかりである。
で、ここについている拓郎本人によるライナーノーツがものすごく楽しそうなのである。ひとりぼっちでアレンジを作っては作り変え、多重録音やサンプリングで遊ぶ拓郎少年の楽しさが伝わってくる。
吉田拓郎も僕もかなり年を食ってきたので、ひょっとしたらこれが僕が買う最後の彼の CD になるかもしれない。良いものを買ったと思っている。
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