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Saturday, August 11, 2018

出会いの場

【8月11日 記】 先日、次の約束までにすごく時間が空いてしまい、移動しながら何軒か大きな書店を回って暇を潰した。リアル店舗に長く滞在するのも、それをハシゴするのも久しぶりのことである。

そして、まあそうだろうとは思っていたが、改めて愕然としたのは、「文学」ジャンルの占めるスペースの小ささである。文庫本はまだ置いてある。しかし、単行本は、どの本屋でも、恐らく10年前の何分の1になっているのではないだろうか?

大きな本屋であれば、昔は英米文学の書架だけでも3つ、4つはあった。場合によっては廊下ひとつ分の片側が全て外国文学の単行本を並べている書店もあった。そして、日本の文学は一国で外国文学全体とほぼ同量を占めていることが多かった。

ところが今は下手すると「文学・小説」で、日本も外国も合わせて書架2つ分だったりする。

誰でも分かることだが、ひとつには「文学」が売れなくなっているということ。でも、それだけではないと思う。本屋が自ら「文学」の売り場を狭めて行っているのである。

そう書くと、「それは同じことではないか? 売れないから書店が棚を狭めたのだ」という反論があるかもしれない。確かにそれは密接に関係してはいる。だが、同じではない。

昔は売れようが売れまいが、店主のポリシーに沿った本を堂々と、しかも大量に並べている本屋があった。そこにあったのは「こんないい本があることを世間の人に知らしめなければ」という、言わば使命感にも似た心意気である。

僕が東京で一人暮らしをしていたときの駅近の本屋には、麻薬や宗教や学生運動など、やや怪しげな題材の本が、ごく一般的な売れ筋の本に混じって並べてあった。

それは単にジャンルの問題ではない。同じ「外国文学」でも、その本屋ならではの、その本屋の店主や店員が一生懸命趣向を凝らした品揃えがあったということだ。だから、本屋を巡ると今まで知らなかった本との出会いがあった。

それがありがたかったのである。そういう陳列をしていてくれなければ、僕は W・P・キンセラにもアントニオ・タブッキにもドン・デリーロにも保坂和志にも出会わなかったと思う。

今はどの本屋を見ても売れ筋の本しか置いていない。僕が読みたい純文学などは、「日本文学」という曖昧な括りの中で、ミステリやら時代小説やらライトノベルやらの中に紛れて、実は10冊も置いていなかったりする。かろうじて村上春樹が3冊あるくらいが限界なのか。

本屋だって商売なのだからそれは仕方がないと言うかもしれない。本が売れない。その上に本をネットで買う人が増えてきた。だから、売れそうな本で固めないと本屋の売上は落ちる一方だ。

本屋は言うだろう。Amazon はいいよな。無限に在庫を持てるから。でも、我々は限られた店舗のスペースに本を置かなければならない。置いておいても全く売れないような本は駆逐されて当然だ、と

でも、そのことによって、本屋はどんどん魅力のないスペースになっている。僕も本屋に行く機会は減った。本はほとんどネットで買うようになった。いや、そればかりか、最近は原則として電子書籍しか読まなくなった。

本屋は言うだろう。そもそもお前がそんなことをするからリアル本屋が廃れていくのだ。本屋の姿勢を云々するなら率先して本屋に買いに来いよ、と。

それは今のテレビの状況とよく似ている。テレビが見られなくなってきた(長いスパンで見ると如実に世帯視聴率は落ちている)。若い人たちはテレビ番組ではなく、インターネットで動画を観るほうを好むようになってきた。

かくなる上は当たりそうな番組ばかりを揃えるしかない。そのことによってタイムテーブルは同じような番組ばかりになる。そのことで却って視聴者が余計に離れて行くという面も否定できない

テレビ局は言うだろう。Amazon や NETFLIX はいいよな。無限に在庫を持てるから。でも、我々は1日24時間という限られた時間の中に全ての番組を嵌めなければならない。視聴率の低い番組は終了して入れ替えるのが当然だ、と。

テレビはまだまだ面白いのだ。テレビを批判する前にまず電源を入れてもっと番組を見てみてくれよ、と。

仕方がないと言ってしまえばそれで終わりになる。

かくして僕らの本屋は、僕らのテレビは、もう出会いの場ではなくなってしまったのである。

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