『夢印 MUJRUSJI』浦沢直樹(書評)
【8月12日 記】 先日 WOWOW で浦沢直樹のドキュメンタリを観たのが引き金になったのか、本屋でこの本が平積みになっているのを見た瞬間にどうしてもほしくなった。
僕にとっては『20世紀少年』に次ぐ2作目の浦沢直樹(そう、僕は『YAWARA』も『MONSTER』も読んでいない)。
ビッグコミックオリジナルに連載していたらしいが、単行本では1冊である。
さて、読み終えたときのこの徒労感は何だろう?
いや、読んで損をしたと言うのではない。登場人物ひとりひとりの徒労感。どの人物にも何かを成し遂げたという達成感がない。そもそも何かをやろうとしていたのか、誰かに乗せられていただけなのかも定かでない。
だが、多分多くの人の人生はこんな風に転がって行くのである。
バレないと思った脱税がバレて、当たらないと思った福引で地中海クルーズが当たり、売れると思ったマスクが在庫の山になり、夢が叶うマークだと思ったものが歯で、仏様だと思ったものがおフランスだったりする。
でもいきなり渡仏してしまう決断力はすごいし、そこで協力者が現れていよいよと思っていたら、でも、そんなにすんなりと計画が実行できるはずはない。
で、一体所長は何者だったのか?
全てが徒労のように見えて、全てが人生の比喩のようにも思えて、俺は一体何を読んでいたのだろうと思いながら単行本を閉じたら、裏表紙に載っているカラスのマリアにじっと見つめられた。
カラスは僕を見て笑っているのかもしれない。でも、読み終えた僕もやっぱり笑っているかもしれない。
読み終えた僕らはいつの間にか夢のマークを心に刻印しているのである。
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