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Sunday, July 29, 2018

映画『終わった人』

【7月29日 記】 映画『終わった人』を観てきた。

毎月公開される新作映画を割合綿密にチェックしているつもりなのだが、この映画には全く目が行かず、いつ公開されたのかも知らなかった。それが当たっていると聞いて見に行ってきた。

元エリート銀行員が定年退職で暇になってみると何もやることがなく、妻にまとわりついて嫌がられ、娘には「恋でもしたら」とからかわれて、自分の人生は終わってしまったんじゃないかと焦り、落ち込み、悪あがきする物語である。

主演は舘ひろし。往年のアクションスター、往年のクールな2枚目がそんな情けない役を演じている。

そんな映画がなんで当たるんだろう? 若い人が見に来そうなテーマではない。かと言って、同年輩であれば逆に情けない自分自身の姿を見ているようだと敬遠する人もいるのではないかな。

さらに驚くのが、監督がホラーの巨匠・中田秀夫であるということ。これはひょっとして霊や怪物が出てこない現代社会のホラー映画(舘ひろしが最後に救いようのないような恐ろしい仕打ちに遭うとか)なのだろうか、などと実は少し戦々恐々としながら映画館を訪れたのである。

ところで、この映画、なんと、ネットでチケット予約できないのだ。有人の売り場で切符を買うのは何年ぶりだろう。ともかくチケットを買って映画館に入ると、パラパラという感じの入りである。当然高齢者が多い。

映画は、主人公の田代壮介(舘ひろし)が出向先の専務として最後の日を迎えるシーンから始まる。

皆に見送られ、「定年って生前葬みたいだな」という壮介の独白が入ると、壮介が乗るハイヤーが霊柩車になり、玄関まで出てきてくれた部下たちがいつの間にか喪服姿に変わり、そこに坊主までいるという冒頭からしてなかなか面白い。

エンディングロールで出演者の中に内館牧子の名前を見つけて、果たしてどういう絡みでこんな人がカメオ出演しているのだろう?と思ったのだが、この映画の原作が内館牧子の小説なのだそうだ。そして、原作を読んだ中田監督が惚れ込んで自ら映画化を企画したのだとか。

中田監督も自分自身の志向性としては決してホラー一辺倒ではなく、メロウなドラマやコメディもやってみたかったのだそうだ。

脚本は根本ノンジという人で、構成作家でありテレビドラマの脚本を物してきた人のようだが、この脚本がとても良く書けている。それは「うまく編み込まれている」とでも言うべきであって、1つのシーンと別のシーン、最初のほうの台詞と後になって出てくる台詞、人物に関する1つの設定と後々の展開が非常にうまく繋がっている。

定年後の初日、壮介はともかく時間が潰せず、夕方には妻の千草(黒木瞳)が働く美容院にお迎えに行くなどして、次第に千草に呆れられ、嫌がられる。仕方なく自分で行き場を探して、ジムで体を鍛え始めるのだがなんだか満たされない。

ある日、古本屋で学生時代に読んだ本を見つけ、壮介は大学院に行こうと決意する。で、千草のいとこで家にもよく来ているイラストレータ・青山俊彦(田口トモロヲ)の勧めでカルチャー・スクールに通い始めるのだが、そこの受付の浜田久里(広末涼子)に好意を持ち、「恋でもすれば」と言われたのが頭に残っていてついつい本気になってしまう。

やがてジムで知り合ったIT系の社長・鈴木(今井翼)に請われて、彼の会社の顧問に就任する。壮介は久しぶりに仕事がある生活に戻り、生きがいを取り戻す。しかし、そこから先には、今まで順調に来た壮介の人生でかつてなかったような波乱万丈が待っていた。

舘ひろしという人はあまり細かい演技ができる人だとは思わないが、ここではそれが幸いして情けない感じがストレートに出て笑いを誘う。それに対して妻の黒木瞳はいつもの通りのキリリとした感じで好対照を映し出す。

2人の娘・道子を演じた臼田あさ美が非常に良かった。彼女の言葉が父を動かし、彼女の台詞がストーリーをドライブして行く。

壮介の出身地である山形が巧みにストーリーに編み込まれている。

壮介の同窓生たち(笹野高史、ベンガル、渡辺哲ら)の絡ませ方も巧いし、同年輩の役者たち(温水洋一、志賀廣太郎、高畑淳子ら)の使い方も巧い。

ラスト近くの、NPO 法人の事務所前の桜の木を挟んで2人の人物を捉えた、ものすごい引きの画が圧倒的だった。

良い映画である。ここから何か教訓を読み取ろうなどとせずに、虚心坦懐にスクリーンを見つめれば良いのではないだろうか。

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