『コーヒーが冷めないうちに』マスコミ試写会
【7月27日 記】 映画『コーヒーが冷めないうちに』のマスコミ試写会に行ってきた。
宣伝文句に「4回泣ける」などと書いてある。僕が凡そ見そうにない映画である。そもそも原作小説の広告を見た時に反射的に読みたくないと思ったほどだ。
ただ、今回は脚本が奥寺佐渡子なのである。これを見逃すわけには行かない。
そして、演出がドリマックス・テレビジョンの塚原あゆ子。ご存じない人もいるかもしれないが、ドリマックスは昔の木下プロである。今は TBSの(100%ではないが)子会社であり、塚原はここのディレクターとしてTBS を中心に多くのドラマを手がけている。
『夜行観覧車』、『アリスの棘』、『Nのために』、『重版出来!』、『リバース』、『アンナチュラル』──いずれも僕が熱狂的に嵌ったドラマだ。そして、このうち『夜行観覧車』、『Nのために』、『リバース』が奥寺佐渡子の脚本である。
映画館では『しゃべれども しゃべれども』を皮切りに、『パーマネント野ばら』、『八日目の蝉』、『軽蔑』、そして細田守の何本かのアニメーションを含めて、今までに9本の奥寺作品を観てきた。どれも素晴らしかった。
そういう期待があって観に行ったのである。
とある喫茶店のとある席に座ると(面倒くさいルールはいっぱいあるが)自分の思った過去に行けるとしたら──というジャスト・ワン・アイデアから組み立てた話だ。
映画ではそこに座る4人の物語が描かれる。ただし、この設定だけ置いて、そこから最後は良い話に持って行こうとすると、自ずと展開は限られてしまう。
映画化にあたっては、原作では若年アルツハイマーを発症した夫と妻の話を、男女の設定を逆にして松重豊と薬師丸ひろ子に演じさせたり、原作にはなかった主人公の数(かず、有村架純)の恋人・亮介役に伊藤健太郎(前は名字のない健太郎だった)を起用したりして、それなりに工夫がある。
特に亮介が4つの話をドライブして行く縦糸としてよく機能している。このあたりが塚原=奥寺コンビの物語作家としての手腕だと思う。
ある程度予測可能な「良い話」が4つ並んで、その最後の話で展開される言わばどんでん返しをどれだけ楽しめるかがこの映画の評価にそのまま繋がるのではないだろうか。
薬師丸ひろ子、松重豊、吉田羊ら、やっぱり巧い役者たちに、有村架純、伊藤健太郎、波瑠、林遣都ら次世代のスターがバランスよく絡んで狙い通りの良い話にはなっている。一回も泣く気はつもりはなかったのだが、不覚にも2つ目の話に落涙してしまった。
ただ、惜しむらくは、奥寺佐渡子が手がけるにはあまりにも良い話すぎたこと。恐らく彼女はもっと過酷な話のほうが得意だと思う。彼女らしい鋭い、切れば血の出るような台詞を聴きたかった気はする。いや、この脚本はこれはこれでとても上手いのだけれど…。
あと、BGM の使い方がまるで TBS金ドラだと思ったら、音楽の担当が横山克で、これまた『夜行観覧車』、『アリスの棘』、『Nのために』、『リバース』を手がけた人だった(笑)
9/21(金)ロードショー。
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