『フェスティバル・エクスプレス』
【7月7日 記】 会社で隣の席に座っている同僚が貸してくれた Blu-ray Disc なのだが、僕はこんなコンサート・ツアー(と言うか、まさに“フェスティバル”なのだが)が開かれたという事実さえ知らなかったし、それがこんな記録映画になっていたことももちろん知らなかった。
時は 1970 年(ビートルズが解散した年だ)。
通常ロックのフェスティバルなどと言うと、例えばウッドストックみたいに、大きな野外の会場を借りて、そこに人気バンドが結集して、全国から何万人の観客を動員するというものだ。
ところが、これは逆で、ザ・バンドやジャニス・ジョプリンやグレイトフル・デッドや、あとは僕があまりよく知らない多くの人気バンドのメンバーが、チャーターした列車に乗り込んで何日もかけてカナダの東から西へと横断の旅をし、時々下車して演奏をするというものだ。
その模様が、コンサートの企画運営者と、出演したバンドのメンバーたちのインタビューを交えながら、描かれている。
ツアーのほうは、最初の街(トロントだったか)で、入場券を買っていない2000人の若者たちがただで入場させろと言って警官隊と衝突する騒ぎ(この時代特有の反体制・反権力的な、しかし、やみくもなムーブメントである)になり、打開策として本番とは別にフリー・コンサートを開催するなどしたので、いきなり赤字間違いなしみたいな感じで始まった。
でも、主催者はそれでも列車を止めなかった。そして、その列車の中で、北米を代表する一流ミュージシャンたちの交流が途切れることなく続いた。最後のコンサートの夜に、ジャニスがわざわざ主催運営の2人を壇上に呼んで感謝の意を伝えたところにも、彼らの高揚感が表れている。
改めてこの時代のロックを聴いて、ひとつひとつの曲が今のロックのイメージではなく、むしろ王道的なカントリーであったりブルーズであったりフォークであったりするところに驚く。12小節のブルース・コード進行に則った曲の多いこと!
ブルーズにリズムがくっついてリズム&ブルーズになり、そのリズムが揺れたり転がったりしてロックンロールになったというのが一般的な流れだと思うのだが、グレイトフル・デッドやバンドはやっぱりカントリーの流れをしっかり汲んでいる。
そして、ジャニス・ジョプリンは今聴くと完全にソウルである。
でも、そんなステージ上の演奏よりもすごいのは、列車の中での自然発生的なセッションで、酒とドラッグのせいもあっただろうが、そこに参加したミュージックがどれほどハイ・テンションになっていたかがよくガンガン伝わってくる。
リック・ダンコとジャニスとジェリー・ガルシアともうひとり誰かが一緒にやっている時のリックとジャニスの楽しそうな顔。
そして、他の日の他の車両では管楽器が4人ぐらい入って演奏しており、このメロディ何だったけな?と思ったら、なんとクリームの “Sunshine of Your Love” ではないか!
「ロックの歴史を変えた幻のフィルム」という謳い方をしているが、まさにその通りである。走り抜けて行く FESTIVAL EXPRESS を外から捉えたカメラもあり、一体どれくらいのスタッフとお金をかけたのだろう?
なんでも 1995年に、75時間に及ぶこの記録フィルムが発見されて、そこから8年かけて、権利処理、インタビュー追録、編集してこの映像が完成したとのこと。
これロック・ファン垂涎の、と言うより、ロックの歴史的名盤と言ってよいのではないだろうか。良いものを貸してくれた。
バンドが最多の3曲、ジャニスとグレイトフル・デッドが2曲ずつ収められている。
出演者のひとりが、「最高の体験だった。ジャニストもジェリーとももう会えないんだし」と語っていたが、リチャード・マニュエルもリック・ダンコもレヴォン・ヘルムももう死んでしまった。
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