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Sunday, July 15, 2018

映画『猫は抱くもの』

【7月15日 記】 映画『猫は抱くもの』を観てきた。犬童一心監督の単独演出作品を見るのはなんと2005年の『メゾン・ド・ヒミコ』以来13年ぶりである。

今回は犬童一心監督というだけで決めたので予備知識はほとんどないまま見に行ったのだが、始まったらなんとも奇妙な映画である。

人が猫の役をやっている。アニメでも着ぐるみでもない。人が人の服を着たまま人の言葉で猫を演じている。もちろん終始それでは観客に対して猫であることが分からないので、時々本物の猫になったりもするが、概ね人が猫である。

で、猫に扮した人が猫の世界を描く(例えばミュージカル『CATS』みたいに)のであれば珍しくないが、ここでは猫と人間の両方が登場して、両方の世界が描かれる。画面の中ではどちらも人間の格好をしているが、一方は猫である。

猫と人間が人間の言葉で会話をする。が、人の言葉は猫に通じるが、猫の言葉は人には通じない。しかし、飼い猫にありがちな傾向として、一部の猫は自分が人間だと信じており、言葉も通じていると思っている。猫と猫の間ではもちろん会話は成立する。

この不思議な構造をよく考えたなと思う。原作は不思議な猫小説の名作として評価が高いのだそうだが、人の格好をした人に猫を演じさせたことによって、この設定はなおさら不思議なものになった。

しかし、不思議はそれだけではない。ドラマが進行する職場や家はリアルに本物を模したセットではなく、演劇のセットさながらのもので、しかも、それが舞台の上で動いて転換する。

さらに劇場の客席部分にもセットを建てて、俳優たちは客席の通路を歩いてセットを移動したりする。一部のセットは漫画のような書割である。

この不思議な美術によって、ドラマはかなり演劇的なものとなる。

主人公は沙織(沢尻エリカ)。元5人組のアイドルで、ヒットチャート3位まで上がった持ち歌がある。ごく短いソロのパートを歌って、あとは後ろで踊っていた。

そんな彼女が今はスーパーでレジ打ちをしている。その沙織がスーパーの倉庫で飼っているのがロシアンブルーの猫・良男(吉沢亮)。

そのスーパーで万引きをした少女を引き取りに来たのが、少女の叔父で売れない画家のゴッホ(峯田和伸)だ。

ゴッホがスーパーに現れた時、ズボンに黄色の絵の具がべっとりついていたので、沙織はゴッホの生活を空想する──色弱のため色が判別できず、黄色の絵の具ばかり使って絵を書いており、住んでいる小屋も黄色、飼っている猫の名前もキイロなのではないかと。

そしたら、山道を歩いていたら突然黄色のペンキを塗りたくった掘っ立て小屋からゴッホが出てきて、自分の飼い猫に対して「キイロ」と呼びかけているではないか。

そもそも沙織が空想癖のある女性に設定されていることもあり、この辺りを観ていると、どこまでが現実でどこからが空想か区別がつかなくなる。劇場(公会堂?)の舞台と客席を使ったセットがなおさらその不思議感を強める。

本当に見事な仕掛けである。ファンタジーのようでくっきりとファンタジーにはなっていない。あまりに不思議すぎて逆にファンタジー特有の絵空事という感じがない。だから、主人公がちゃんと立ち直れるような気がしてくる。

脚本を書いたのは高田亮。『さよなら渓谷』『そこのみにて光輝く』『きみはいい子』『オーバー・フェンス』と手がけた作品を並べてみると分かるが、本当に巧い人である。

ストーリーは細かく書かないが、乱暴にまとめてしまうと、傷ついた元アイドルの再生物語である。そう書くととてもありきたりに聞こえるだろうが、具体的なスジの運びは決してありきたりではない。

アイドル時代の沙織に嫌な思いをさせたプロデューサー。結局のところ元アイドルとつきあいたくて接近してきたスーパーの上司。懐かしのアイドル番組で晒し者にされる感じ。どう見てもうだつの上がらない画家・ゴッホに言われた言葉にドキッとする。

そして、そこに猫たちが関わってくる。猫の人への愛。猫の気ままな振舞い。一方で猫社会の中では、良男は自分を人だと思っていることで他の猫たちからバカにされる。ここには猫の成長物語も組み込まれている。

ゴッホの飼い猫・キイロを演じていた女性を見ながら、「歌も歌うし、多分この感じだと歌手なんだろうな」と思っていたら、エンドロールで水曜日のカンパネラのコムアイだと知ってびっくり。音は何度も聴いているが、静止画でしか見たことなかったので分からなかった。

このコムアイ/水曜日のカンパネラが手がけた劇中歌や、アイドル時代のヒット曲として披露された『ロマンス交差点』も含めて、音楽が非常に良かった。

そして、ねこすて橋にたむろする多くの猫の中の一匹・サビを演じた、このちょっと大げさな演技をするオッサン、どっかで見たことがあると思ったら、なんと HTB『水曜どうでしょう』の名物ディレクター・藤村忠寿さんだった(笑)

芝居もやっていることは知っていたけれど、リアルに会ったことのある人間がいきなりスクリーンに出てきたら分からないものである。

岩松了や蒔田彩珠のように人間と猫の二役を演じた役者もいた。猫のファッションが多彩で、和装の猫までいる辺り、やっぱり発想がぶっ飛んでいる(笑)

ことほどさように自由な空想力が生んだ傑作になった。見逃さなくて良かった。

映画館から出てきたら、後ろを歩いていたカップルがこんな話をしていた。

「なんか、一風変わった映画だったね」
「期待したのと全然違ったけど(笑)」
「でも、面白かった」
「うん。最初は、しまった!なんか違う映画選んじゃったかな、と思ったけどね」

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