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Sunday, June 24, 2018

ミレナの鐘

【6月24日 記】 東京に出てみると、全国共通の言葉だと思っていたものが実は方言だったというようなことは結構ある。しかし、逆に方言だと思っていた言葉が実はそうではなかったというようなことはないだろうか?

方言でなければそれは何かと言うと、それはある地方でしか通じない言葉である方言ではなく、我が家でしか通じない妙な言葉である。

小さい頃、母方の祖母が隣に住んでいた。祖母は徳島出身である。だから、よく徳島弁(阿波弁)の語彙を持ち出した。

でも、僕が徳島弁だと思っていたものが実はそうではなく、ひょっとしたら世界中で祖母だけが使う独特の表現であったかもしれないと気がついたのである。言うならば「うちのおばあちゃん語」。

例を示そう:

  1. あくちが切れた
  2. あほらし屋の鐘が鳴る
  3. あんずあんずする
  4. うちゃもういやいや
  5. ええ年かきもそげて
  6. えくそいき
  7. 風邪はゴキの風邪
  8. ミレナの鐘の音

もしこれを読んだ人の中に徳島弁に堪能な人がいて、「いや、それは徳島弁ですよ。私もよく言います」なんてのがあれば是非知らせてほしい。下にも書いたが2)は大阪弁かもしれない。

1)は唇の端が裂けるようにちょっと切れることがあるが、そんなときにいつも祖母は「あくちが切れた」と言って、庭のアロエを切ってその汁を塗りつけていた。「くち」ではなく「あくち」というのは何なのだろうか?

「亜口」だろうか? 口全体ではなく、口のほんの端だから「亜口」。「亜流」という言葉があるように、「亜」には「~に次ぐ」という意味がある。

2)は、要は「あほらしい」、標準語では「バカバカしい」と同じなのだが、呆れてものも言えん、ぐらいのときに「あほらし屋の鐘が鳴るわ」と言うのである。

これはひょっとしたら関西一円で広く使われる表現かもしれない。祖母も母もよく言っていたし、他でも聞いたような気もしないではない(大勢が使う表現ではないが)。

3)は、もう目いっぱいでできないという感じの表現。「全部食べよと思たけど、お腹一杯であんずあんずする」とか「最後までやろと思たけど、難しいてあんずあんずした」とか。

「あんず」は決して「杏」ではないと思うのだが…。

4)は一人称の主語「うち」に係助詞「は」がついた「ウチは」が「うちゃ」に訛ったもの+「もう」+「いやいや」。ただし、「いやいや」は「嫌々やる」「嫌々ながら」という「嫌々」ではなく、むしろ「いやはや」と言い換えられる。

祖母は呆れるといつも「うちゃもういやいや…」と言っていた。いやはやどうだと言うのか、最後まで言い切らずに妙に余韻があった。「あほらし屋の鐘が鳴る」と違って、こちらには「世も末だ」と言うような、社会や時代を批判する色合いがある。

5)は「ええ年かいて」「ええ年こいて」と同じ。標準語で言うと「いい年して」という意味である。ただ、「かきもそげて」と言うと、もっと驚きと呆れと侮蔑の色合いが強くなる。単にかいているのではない。かきもそげているのである(笑)

6)は「思いっきり」と同じ。「思い切ってやった」という意味の思いっきりではなく、「思いっきり辛い」などと言う時の単なる強調語である。ただ、「えくそいき」には「むやみやたら」「ヤケ糞で」というニュアンスがある。

だから僕は「えくそいき」の「くそ」は「糞」ではないかと思っている。

7)は何か。それ自体は僕も解らない。ただ、僕が風邪を引くといつも祖母が「風邪はゴキの風邪言うてな」と言って食べ物をたくさん持ってきたものだ。

「ゴキ」が何のことなのかいまだに分からないのだが、「風邪はゴキの風邪」というイディオムは、要は「風邪はたくさん食べないと治らない」という意味らしい。

このゴキが何なのか母と議論したことがある。母も自分の母親が使うゴキが何なのか知らなかったが、彼女の推理ではこれは「ゴキブリ」のことで、何でも食べてしまうゴキブリみたいにガツガツ食べないとダメだという意味ではないか、と言うのだが、僕にはイマイチ説得力がない(笑)

最後の8)は祖母がお手玉(僕の小さい頃は「おじゃみ」と言った)をして遊ぶ時の歌である。祖母の脳内ではあほらし屋であったりミレナであったり、ともかく鐘がよく鳴るのである。

このあと歌詞は延々と続くのだが、僕がちゃんと憶えていないというだけではなく、この先およそ何語なのか分からなくなってしまうので、とりあえず冒頭の部分だけ抜いた次第。

お手玉の数え歌というのは多分古い時代に起源があるのではないかと思うのだが、いきなり「ミレナ」である。これは外来語(多分固有名詞)としか思えない。鐘の音と続くからには教会の名前か何かだろうか。ひょっとして、聖ミレナ教会なんてとこがある? しかも徳島に?

記憶が定かでないのだが「ミレナの鐘の音 ひとつふたつまなく」とかなんとかだった。「まなく」だったか「ほだつ」だったか、正確なところ自信はないのだが、ともかくここには意味不明の単語が入っていたのは確かだ。

他にもたくさんあったはずだが、今思い出せるのはこのくらいである。

祖母からはもちろん徳島弁もたくさん聞いた。

往ぬ(=帰る)、おまはん(=お前さん、ニュアンスとしては「お前」より丁寧な「あんた」の感じ)、おひーさん(=お日様)、かいらしい(=可愛らしい)、はがいたらしい(=ムカつく、気に障る)、もんてくる(=帰ってくる)など、僕はフツーの大阪弁だと思っていたものが、実は(大阪弁と共通な表現もないではないが)祖母が幼少の頃から使っていた阿波弁だったと判ったりもした。

ただ、祖母はよく言い間違え、憶え間違いをする人で、自分独特の表現を発明する人でもあった。

徳島でなら通じると思っていた表現が我が家でしか通じないらしいと知ったときは驚いたが、その祖母の発明の才についてはちょっと誇らしくもないではない(笑)

お宅の家庭にはそういう例はあるだろうか?

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Comments

「あほらし屋の鐘が鳴る」はやっぱり大阪弁らしいです。「大阪ことば事典」に記載がありました。

Posted by: yama_eigh | Sunday, June 24, 2018 at 18:04

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