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Sunday, June 17, 2018

映画『羊と鋼の森』

【6月17日 記】 映画『羊と鋼の森』を観てきた。

原作は、読んでいると音楽に触れられる小説だった。

恩田陸の直木賞受賞作『蜜蜂と遠雷』と、宮下奈都のこの小説、本屋大賞受賞作『羊と鋼の森』は、片方はピアニストを、もう片方は調律師を(いや、場合によってはピアノという楽器そのものを)描きながら、ともに聞こえない音を行間から感じさせる名作だった。

ところが、これを映像化するとなると、かなり難しくなる。

出版物の場合は音が聞こえないからこそ文字を連ねて読者に音を届けることができたが、映画の場合は物理的に聞こえてしまうのである。役者がどう演じ、カメラがそれをどう捉えても、鳴っている音がそれらをかき分けて前面に出てしまう。

その音をどう作るか?

たとえプロ並みの良い耳を持った少数の観客を唸らせても、凡庸な耳の凡百の観客に音の違いを伝えることができなければ、それは失敗である。だから、必然的に音を伝える手法は比喩的なものにならざるを得ないのである。

そんな心配をしながら観に行ったのだが、そういう意味ではこの映画は成功である。

高校のピアノを調律に来た板鳥(三浦友和)を在校生の外村(山﨑賢人)が講堂まで案内して、自分の役目は終わったので出ていこうとしたときに、彼の背後で 440Hz の音がポーンと鳴り響く。

調律の様子を見ているうちに、外村は生まれ育った土地の森を感じる。すると、講堂の内部に森の木々の影がサーッと上がってくる。

普段我々が目にしたことがないピアノの内部構造を映し出す。独特の工具を使って調整して行く過程を描き出す。

──そんな諸々の比喩を重ねて、音はじんわりと我々に伝わってくる。

主人公の山﨑賢人、板鳥の三浦友和、柳の鈴木亮平はいずれも、僕が原作を読んだイメージとは程遠いキャスティングだった。でも、それぞれの役者が巧いから、ドラマは淀みなく流れる。

何と言っても外村をこの世界に引き込んだ板鳥調律師を演じた三浦友和と、プライドが高くて嫌味な先輩調律師・秋野を演じた光石研が巧すぎる。事務員の堀内敬子も良かった。

で、原作では果たして外村の実家は林業だったっけ?弟はいたっけ?ばあちゃんは出てきたっけ?と、(いつも書いているように)読んだ小説であっても大体忘れてしまっているので、いろいろ気になりながら、でも、ばあちゃんを演じた吉行和子の存在感が(ほとんど台詞なかったのに)半端ではなく、原作通りであってもなくても、ここにはここの確立した世界がある。。

大筋、双子の姉妹・和音と由仁(映画では双子ではない姉妹の設定で、上白石萌音と萌歌の実姉妹が演じた)と新米調律師・外村の話が中心で、概ね原作を尊重した映画化と言えるのではないかな。

姉妹はしっかりと対照的に描かれ、主人公は良き先輩たちに囲まれて次第に成長する。──素直なストーリーの運びに好感が持てた。

森と雪景色をふんだんに取り入れたきれいな映像だった。単に音を描いているのではなく、音が切れた後の無音の使い方も巧かった。

ただ、ラベルやショパンなど、あれだけクラシックのピアノ曲、しかも名曲・難曲を聴かせたあとで、エンディングは久石譲というのはどうよ、ジブリか北野武かい、という感じがした。

別に久石譲が悪いだの低いだの言うつもりはないが、メロディ・ラインがあまりに久石譲で、いくら辻井伸行が弾いてもなんか最後に“俗に堕ちた”感じがしたのは残念である。

和音と由仁という姉妹の名前は、改めて言うまでもないが、カズネと読ませているほうは漢字の通り和音(ハーモニー、コード)であり、由仁はユニと読ませてユニゾン、つまりは同じ高さの2音の重ねを意味している。この2人を萌音と萌歌という名の姉妹が演じるというプランを誰が思いついたのだろう。そのセンスに拍手を送りたい。

できれば、カメオ出演で良いので、吉田羊と吉田鋼太郎を出してくれていれば、完璧だったのだけれど(笑)

監督は橋本光二郎。原作に惹かれていたので、僕としては珍しく監督名をほとんどノーチェックで観に行ったのだが、調べてみたら『orange -オレンジ-』の監督だった。前作とはかなりトーンが違うように思う。今後が楽しみである。

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