ぼくを見かけませんでしたか
【6月12日 記】 人が死ぬのを喜んではいけない。だけど、好きだった歌手が亡くなるといつも、新たにベスト盤が編まれたり、廃盤が復刻したりしないかな、と思ってしまう。
今日の報道で森田童子が亡くなっていたことを知った。僕が知ったのが今日だったというのではない。そもそも記事自体が「亡くなっていたことが分かった」というものだった。
人は失敗に打ちひしがれたりして極度に気分が落ち込んだとき、明るい曲よりもむしろ暗い曲を聴いたほうが立ち直りが早いものである。無理に明るい曲を聴くと空々しい気分になるだけなのである。
むしろ、徹底的に深く沈み込める曲を聴いたほうが良い。水死体は一旦底に沈まないと浮き上がって来ないと言うではないか(本当なのかどうかは知らないが)。
だから、落ち込んだときは中島みゆきを聴け、それでもダメなら山崎ハコを聴け、それでもまだダメだったら森田童子を聴け──若かった頃そんな話をしていた記憶がある。
そう、それは 1970年代後半である。訃報記事に判で押したように書いてある「『ぼくたちの失敗』が TBSドラマ『高校教師』の主題歌に使われ」というのは、僕らにとってはリバイバルでしかない。
森田童子は 1970年代後半のムードを代表していた。若かった僕は、孤りの部屋でヘッドホンで彼女の歌を聞きながら、まかり間違えば自殺していたかもしれない。もちろん、まかり間違えなくて良かったのだが、それくらい彼女の歌は僕らの鬱々とした心に突き刺さったのだ。
彼女のアルバムはどれもこれも素晴らしいが、その中でもとりわけ後年手に入りにくくなったのが 77年の 3rdアルバム『A BOY ボーイ』である。その中でもとりわけ『ぼくを見かけませんでしたか』という作品が好きで、僕はずっと探していた。
いつの間にか復刻版 CD が出ていたようだが、ご多分に洩れず、僕もいつの間にかほとんど CD を買わず DL してプレイヤで聽くようになっていたので、デジタルの音源を探していたのだ。
でも、このアルバムの音源だけはなかなか手に入らない。mora には上がっておらず、TSUTAYA でもずっと在庫切れになっていた。訃報に接して久しぶりに DISCAS のページを見てみたがやはり在庫切れである。
でも、Amazon を検索してみると、ちゃんと新品を売っているではないか。
これはもう板で持てと言うことなのか。亡くなったのを機に新たに編集された追悼盤ベストが出るかもしれないが、『A BOY ボーイ』の曲順でもう一度聴きたいという思いが沸々と沸き上がってきた。
やっぱり買うべきなんだろうかと暫く考えたが、他に答えがあろうはずがない。
「ぼくを見かけませんでしたか」──森田童子が僕に向かってそう語りかけている。
Comments