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Saturday, June 09, 2018

映画『榎田貿易堂』

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【6月9日 記】 映画『榎田貿易堂』を観てきた。『万引き家族』も『羊と鋼の森』も始まったが、まずはこの映画である。『放郷物語』以来ほとんどの映画とたくさんのテレビドラマシリーズを観て、敬愛してやまない飯塚健監督の作品。

今回は公開初日の舞台挨拶もあった。僕が観た本日2回目の舞台挨拶はメディア抜きの完全一般客向け舞台挨拶で、拡散のための写真撮影も許された。

前の席のバカ野郎がスマホを高く掲げて邪魔をするので良い写真が撮れなかったが一応上げておく。舞台下手(左)から飯塚健監督、三浦俊輔、伊藤沙莉、渋川清彦、森岡龍、滝藤賢一、余貴美子、片岡礼子、キンタカオ。

主演は中央の渋川清彦である。この芸名は出身地の群馬県渋川市にちなんだのだそうで、飯塚健監督も同郷、しかも、同じ高校を卒業しており、その縁で何か映画を作ろうということになったのだそうだ。

漫画原作全盛の時代にたくさんのオリジナル作品を撮ってきた飯塚監督が渋川の主演を念頭に練りに練ったのがこの脚本である。今までの作品で言うと『REPLAY & DESTROY』の線かな。

飯塚監督の真骨頂は会話のおかしさである。まとまりのなさや話の逸れ方が如何にもリアルで、でもバカばっかり言っているようでそこはかとなく人の世の真理を語っていたりする。初っ端から、

「人が話してるのになんで無視すんのよ」
「無視してませんよ。答えようがなかっただけでしょ。だいいち僕に訊かれても答えようがないでしょ。意味のあることを話すのが会話だと思いますけど」
「なんてことないことを話すもの会話だと思いますけど」

などと(記憶に基づいて書いているので正確な再現にはなっていないと思うが)、妙に含蓄が深いではないか。そんなことない?

それから、飯塚監督のもうひとつの特徴は、カットを割らずに役者に長い芝居をさせること。いつもはものすごい動きのあるシーンを、人もカメラも長距離移動しながら長回しで撮ったりするのだが、この映画ではそれはなかった。

じっくりカメラを据えて長い台詞の応酬をさせる。さながら役者同士の真剣勝負である。それがなかなかおもしろい。それがなかなかしんみりさせてくれる。

渋川でゴミ以外ならなんでも買い取ってなんでも売るリサイクル店(と言うより、見た目は骨董品屋)「榎田貿易堂」を営む榎田洋二郎(渋川清彦)。その店で働く元サラリーマンの清治(きよはる、森岡龍)と人妻の千秋(伊藤沙莉)。

そこに毎日のようにやってくる近所の主婦(と言うか独り者)のヨーコ(余貴美子)。東京で自称スーパー・チーフ助監督を務めながら将来自分の撮るシナリオを練っている萩原(滝藤賢一)は自称「夏休み」で帰省して実家の旅館を手伝っている。

理髪店の女店主(片岡礼子)は昼間から店を閉めて榎田との情事に溺れる。榎田はそれを小学生に覗き見させて小遣いを稼いでいる。

そんな人たちのどこかちょっとおかしい会話がテンポよく交わされる。千秋の様子がおかしいと誰かが言い出して、夫婦仲がうまく行っていないのではないか、夫のDV ではないか、など空想が広がる。

ヨーコがどこも壊れていない洗濯機を榎田に引き取らせたのは、洗濯が面倒くさくなったのか、自分の死期を知って身辺整理し始めたのではないか…、などと話がどんどん飛躍して行く。

それぞれの登場人物に暗い過去や見えない未来、あるいは満たされない毎日がある。悩みやコンプレックスがあり、曰く因縁があり、家庭の事情がある。

ええい、ならば一旦なんもかんもやめて一から出直してみようか──そんな映画である。読後感はすこぶる良い。

主演の渋川清彦も良いが、共演の森岡龍、伊藤沙莉が素晴らしい。森岡はこれまで10本の出演作を観てきたがこの作品で初めて顔を憶えた。伊藤は飯塚監督の映画/テレビの常連で顔に記憶はあったが、これで名前が一致した。

滝藤賢一、余貴美子、片岡礼子はいずれも好きな役者で、みんな自然な演技がすごい。車の音、雨の音、ずっと何か鳴っているノイズまで愛おしくなってくる。

舞台挨拶で、多くの出演者が監督に「是非続編を作ってほしいと」言っていた。その感じがとても良く分かる映画だった。

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