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Tuesday, May 08, 2018

難読と常識とオイラーの等式

【5月8日 記】  時々変なことが気になり始める。今まで何も思っていたなかったのに、急に引っかかり始めるのだ。

最近で言うと、例えば英語の第一人称の代名詞の主格はどうして I と大文字で記すのだろう、というようなこと。

これは、以前やっていたホームページの「ことばのエッセイ」シリーズの中で、僕が繰り返し述べてきたことなのだが、幼少の砌に、あるいは何か物事を習い始めた最初の頃に教えられたことは違和感なく受け入れてしまうのである。

例えば、「人間」を「にんげん」と読ませるのは、これは本来かなりの難読の例のはずだ。でも、小学校に入って割合すぐの頃にこれを習うので、これは「にんげん」と憶えてしまって違和感がない。

「長谷川」を「はせがわ」と読むのも、辞書の巻末付録の難読漢字のコーナーに記載されていて何ら不思議はないが、大体小さい頃にどこかで長谷川さんなり長谷川くんに出会ってしまっているので、それ以降はそういうものとして捉えているのだ。

かくして、それらは「難読」ではなく「常識」となるのである。

しかし、I にしても人間にしても、多分最初は誰かがそう決めたというだけのことだったのではないかと思う。もちろん誰かが勝手に決めたものが受け入れられるとは限らなくて、そこには受け入れられる「理由」、と言うより、受け入れられる「状況」があったのだとは思う。

例えば、すごく権威のあるい人が決めたとか、とても大勢で話し合って決めたとか、あるいは、それを決める場には加わっていないけれど後からそれを使ってみた人たちの間で好評であったとか…。

I に話を戻すと、僕が最初にこれを教わったのは中学校ではなく小学6年生から通い始めた英語塾でだった。

その時の先生の説明が「『私は』という意味のときは大文字で I と書くことにしましょう」という言い方だったので、僕はそれがこの塾のローカル・ルールなのか、それとももう少し広く認められた決めごとなのかどちらだろう、と思った記憶がある。

で、中学に入ってみると、中学の英語の授業でも I は大文字で書くと教わったので、そこで納得してしまって、それ以来そのことをあまり考えたことがなかった。

なんであれ、誰かが決めたのである。で、いつしかそれは常識となった。

ことばにはあまり「理由」を求めても仕方がない。こういうことを経てこうなったという「経緯」はあるかもしれない。あるいは、こういう場合は大体こう読むというような「傾向」はあるかもしれない。だけど「理由」を探すと見つからないはずだ。

しかし、そういうことが突然チャラになって、急にどうして大文字なんだろう、と気になり始めることがある。

でも、これを今さら i と小文字で書いてしまうと何を思い出すかと言えば、虚数 i である。そう、高校時代に数学で習った2乗すると -1 になる数である。

これも誰かがそう決めたものであると言える。ただ、この場合は、考えれば明らかなように、2乗して負の数になるというようなことは本来数学上ありえないことなのに、それを誰かが「もしそういう数があるとしたら」と常識破りの発想をして、無理やり決めてしまったのである。

そんな無理な数字だから「無理数」と言えば良いのだが、「無理数」という名称はもう他のケースで使ってしまっていたので、これを「虚数」という訳語に決めたのである。そう、虚ろな数──なんとなく分かったような分からんような(笑)

でも、そんな無理なものを設定してみると、それが何年か後にはオイラーの等式

e + 1 = 0

などというとんでもなく美しい存在に行き着いてしまう。円周率と自然対数の底と複素数がなんでこんな綺麗な関係に収まるのかさっぱり理解できない。

でも、このオイラーの等式を眺めていると、時には「常識」に「なんで?」という思いをぶつけてみるのも良いかなと思ったりするのである(笑)

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