『ファンベース』佐藤尚之(書評)
【4月3日 記】 佐藤尚之さんには昔からいろんな分野でいろんな著書があるが、この辺に繋がるテーマで言うと『明日の広告』『明日のコミュニケーション』『明日のプランニング』の3冊だろう。
それらの本と比べると、ここでのさとなおさんはその3冊におけるような、“理論を構築して広告を体系化し、新しい時代のコミュニケーションを主導する旗手”というような(御本人は笑われるだろうが)スター的な印象が薄い。
あの3冊の本がそれほどインパクトが強かったということもあるが、ここには CM製作の現場の人というイメージもないし、SIPS のような目を瞠るような新理論もないし、未来を見据えるプロフェッショナルというようなカッコ良い感じがない。
なぜならこれがファンベースの本だからだ。
そこに書いてあることは、「ファンを大切にしましょうね」という極めて当たり前の理屈である。いや、単にファンを大切にしようという道徳的な話ではなく、数は圧倒的に少なくてもまずはコアなファンにサービスすることが商売の第一義であるというような思い切った論説である。
でも、それを理屈から入ると絵空事のように思われてしまうので、最初から結構事例を示して、一見ハウトゥ本のような展開になっている。
ただ、紙面の都合もあってか、それがやや中途半端で、逆に甘っちょろい空論のようにも見えてしまうところがしんどいところだ(笑) そういう状況を踏まえて最後には、しっかりと、そして、楽しみながらキレイゴトをやりなさいというような主張になっている。
なんだか騙されたみたいなふんわりとした書き方なのだが、しかし、その中には、今までマーケティングの世界にはびこっていた、とにかく新規顧客を獲得しようとする手法が全く売上の増大には繋がらないのだという根本的な指摘がある。
読めば読むほど思い当たるフシがあるのだ。
僕は自分の会社人生を振り返って、3年間実施したハッカソンが(きわめて限定的なジャンルではあるが)実は究極的なファンベース政策だったのだと気がついた。
なんか、これまでで一番詰めが甘い本のようでありながら、ここにはさとなおさんの、ここに至るべくして至った集大成があるように思う。
なにしろさとなおさんは10年前の『明日の広告』の中で既に「大切なことは『消費者本位』ただひとつ」と指摘しているのである。そして、その「消費者」をブレイクダウンすることによって「ファン」の概念とその仕組を抽出し、そこに企業の成功と成長の鍵があることを指摘したのが本書である。
読みやすい本である。そして、とっかかりやすい本であり、とっかかりやすい施策について書かれた本である。
僕らもまず少数のファンと繋がって行こう。
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