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Wednesday, March 21, 2018

映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』

【3月21日 記】 映画『素敵なダイナマイトスキャンダル』を観てきた。エロ雑誌の編集者・末井昭の自著を原作として彼の半生を描いた映画。

かなり売れた80年代の『写真時代』は知っていて当然だが、70年代後半の『ニューセルフ』を僕ははっきり覚えている。ともかくエロい雑誌だった。そして、単にエロいだけではなく、当時僕はそこに気骨みたいなものを感じた。

でも、僕は末井昭に興味があってこの映画を観たのではない。そんな人が編集長だったということも知らないし、そもそも『ニューセルフ』と『写真時代』が同じ編集長によるものだったとは今日初めて知った。

(今思えば両誌には共通のトーンがあったように思う。乱暴に言ってしまうと「サブカルの匂い」みたいなことだが、要するにエロをカルチャーの中で捉えている感じがした)

そして、当時とかく低く見られたエロを、低いか高いかはともかくとして人間にとって根源的なものとして捉え直した感のある本で、若かった僕は当時この本との出会いに密かに快哉を叫んでいた(と言っても、毎号買っていたというわけでもなく、多くは立ち読みだったのだが)。

で、話は戻るが、僕がこの映画を観たのは監督の冨永昌敬が目当てだ。

2006年の『パビリオン山椒魚』、2009年の『パンドラの匣』と観て、2010年の『乱暴と待機』があまりに良かったので、以来それなりにマークしてはいるのだが、どうもこの監督、ひとことで言ってしまうと一般受けしないのだろう、上映のされ方がマイナーで、いつも見逃してしまう。

今回は久々に間に合った。そして、テアトル新宿は滅多にない大入りだった。

面白かった。

僕は『ニューセルフ』の編集長ともなると変態的な強烈な性欲の持ち主みたいなイメージを持っていたのだが、別に彼は何が何でもエロを目指していたわけでもなんでもなく、雑誌が廃刊になり、投機にも失敗してパチンコ屋に入り浸りになり、そこから『パチンコ必勝ガイド』というさらなる大ヒットを生んだという辺りが非常に興味深かった。

実の母親がダイナマイトを爆破して隣の家の息子と心中したという強烈なトラウマをスタート地点にして、青春時代の鬱屈と言うか気負いと言うか迷いと言うか、あるいは根拠のない自信みたいなものまで含めて、長い時代に渡って非常に見事な構成で上手に描いてある。

そして、そういう人物を取り巻くそれぞれの時代感みたいなものが鮮やかに描かれていた。

なんでもないシーンなのだけれど、末井が愛人の笛子とボートに乗る80年代初頭のシーンで、ボートの中で笛子が1965年の大ヒットである『夢のカリフォルニア』の間奏を口笛で吹くところがある。

なんか、こういう時代が折り重なったような、引きずってきたものが相互に作用するような感じ。そこがこの映画の全体を象徴しているように思えてならない。

末井を演じた柄本佑、その妻の前田敦子、愛人・笛子の三浦透子の3人がずば抜けて良い。特に三浦透子を見ているとあの時代の爽やかな息吹と猥雑感がごちゃまぜに蘇ってくる気がする。

そして、ダイナマイトで自害した母・尾野真千子のなんとエロく、美しいことか。さらに末井の長年の親友・近松さんの峯田和伸、荒木経惟役の菊地成孔(この映画の音楽も担当)、摘発する警官役の松重豊、ダッチワイフ製造職人の嶋田久作など、登場人物自体がかなり面白いところに役者の演技が上手く乗っかっている。

末井昭本人がインタビューに答えて言っている:

以前(『写真時代』の発禁以前、筆者注)は社会にグレーゾーンがいっぱいあって面白かった。権力側の反応も含めてね。少々過激なことをやってもオッケーかなぁ、みたいな。かと言って反権力とか、そんなつもりで雑誌やってたわけじゃないんです。ちょっとオチョくるみたいな。今はオチョくれないですよね。

そう、混沌は自由を産むのである。

富永監督自身が若い頃に原作に出会い、それに惚れ込んで自分で書いた脚本である。台詞回しにも全体の構成にも思い入れがたっぷり感じられる。ものすごく深い余韻。

うん、この映画には何か賞を獲らせてあげたいね。こういう映画は大好きだ。

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Comments

横浜ではお気に入りのジャック&ベティというミニシアターで、先週土曜日に3週目に突入したのですが、同日、109シネマズ川崎という大きなシネコンでも上映が始まったという、珍しいケースです。

Posted by: hikomal | Saturday, April 07, 2018 13:37

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