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Wednesday, February 07, 2018

「キネマ旬報」2月下旬号(2)

【2月7日記】 さて、例年通り同じタイトルに(2)という番号を振ってキネ旬ベストテンの採点表分析の記事を書きます。

キネマ旬報ベストテンは各審査員(今年の日本映画は66名)が1位から10位までを選び、その1位には10点、2位には9点…、10位には1点が割り振られるシステムです。

僕は毎年『キネマ旬報』2月下旬号についている採点表を見ながら、各映画が何名の審査員によって票を投じられたか、そして、票を投じた審査員の平均点は何点かを割り出して、総得点=投票○人×平均△点という形に分解してみるのです。

考えれば分かるように、点を入れた審査員の数が多ければ、それぞれの点数がそれほど高くなくても結果として高い点数を集めることになります。逆に、人数がそれほど多くなくても、個々の審査員のつけた点数が高ければ、これまた高得点になります。

僕は合計点を上記の手法で分解することによって、大衆に人気のあった作品なのか、通に受けた作品なのかを見ようとしているのです。

毎年書いているように、これは統計学的に正しい手法ではありません。ただ、(上位10本に限ってやるのであれば)これでもざっくりとした傾向を捉えるには役立つのではないか、と言うか、単に自分でやってみて面白くて仕方がないので毎年やっている次第です。

早速、今回の結果を見てみましょう:

  1. 夜空はいつでも最高密度の青色だ
    314点=45人×6.98点
  2. 花筐/HANAGATAMI
    242点=31人×7.81点
  3. あゝ、荒野(前後篇)
    237点=33人×7.18点
  4. 幼な子われらに生まれ
    195点=29人×6.72点
  5. 散歩する侵略者
    172点=29人×5.93点
  6. バンコクナイツ
    164点=25人×6.56点
  7. 彼女の人生は間違いじゃない
    117点=16人×7.31点
  8. 三度目の殺人
    110点=23人×4.78点
  9. 彼女がその名を知らない鳥たち
    103点=21人×4.90点
  10. 彼らが本気で編むときは、
    100点=15人×6.67点

得点を分解する前に驚いたのは、今年は票が割れたのではないかという僕の予想に反して、1位の『夜空はいつでも最高密度の青色だ』がぶっちぎっていることです。

票が割れるどころか、圧勝だった去年の『この世界の片隅に』を上回っています。

314点はこの10年間では2014年度第1位の『そこのみにて光輝く』と並ぶ最高得点です。毎年審査員数が変動するので一概には言えませんが、220点ぐらいで1位が獲れた年もあるので、314点というのが如何に高い点数か分かると思います。

そして、今年は審査員数が多いことを勘案しても、45人というのはかなりの得票数です。その代わり平均得点では10本中4番目です。つまり、この映画は一部の好事家から高い評価を得たのではなく、むしろ多くの審査員に支持されたということ。

これは驚きでした。多分キネ旬ならではの現象なんでしょうね。ま、僕も高く評価した映画なので、納得です。映画というのは映像表現による芸術なのだということを改めて認識させてくれた映画でした。

さて、2位以下で今回の目立った特徴としては4点台の映画が2本(『三度目の殺人』と『彼女がその名を知らない鳥たち』)あるということ。この10年間でベストテンに選ばれた102本(10位タイが2回あったため)のうちで4点台はこの2本だけです。

これはやはり票が割れたということを表していると言って良いのですが、一方で今回は審査員の数が増えたので(この辺りの順位まで来ると)票が割れたのだとも言えるかもしれません。

一方で2位の『花筺/HANAGATAMI』の7.81点というのは稀に見る高得点で、この10年では2015年度第1位の『恋人たち』の7.95点に次ぐものです。

さて、毎年やっているこの分析で一番手っ取り早く傾向が分かるのは、1位から順に投票人数を見て、さらに1位から順に平均得点を見て、それぞれで逆転現象が起きているところに目をつけるという手法です。

例えば1位より2位や3位のほうが平均点が高いです。ずっと下まで見ると7位も突出して高いのが判ります。投票人数のほうを見ると7位までは順当で、8位、9位で逆転しているのが判ります。

2位、3位、7位は1位の『夜空はいつでも最高密度の青色だ』よりも“思い入れ度”の強い作品だと言えます。その3作品は、しかし、1位の“一般受け度”に及ばなかったのです。ただし、“一般”と言っても、あくまで“キネ旬の審査員一般”ですが(笑)

特に7位の『彼女の人生は間違いじゃない』は16人しか投票していないのに、平均点では第2位という、一部の審査員の心を強く打った作品だと言えるでしょう。

同じく10位の『彼らが本気で編むときは、』の6.67点というのも、例年であれば大体2位に入ってくる点数です。こちらはむしろあまり多くの審査員には支持されなかった映画と言うべきでしょうか。

逆に8位、9位の『三度目の殺人』と『彼女がその名を知らない鳥たち』は薄く広く、多くの審査員に支持された作品でした。

5位の『散歩する侵略者』もまた人数で稼いだ映画です。

今回は、ま、そんなとこでしょうか。

ね、こうやって見ると面白いでしょ? 来年もまた書きます、多分。

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