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Tuesday, January 02, 2018

転調

【2002年1月初稿】 転調する曲が大好きで、いつかは転調について書きたいと思っていたのは確かです。

でも、最近の自分の音楽離れした状況を考えるととても書けそうな気がしませんでした。

そんな中、年末のTV番組「ザ・ベストテン2001スペシャル」で久しぶりに渡辺美里の "My Revolution" を聴いてやっぱり何か書きたくなりました。

初めてこの曲を聴いた時、私はこんな転調をする作曲家って一体誰なのだろうと思いました。調べてみると小室哲哉とクレジットされてました。

この曲は私が初めて小室哲哉という作曲家を意識した作品でした。まだ小室哲哉がTMネットワーク(まだTMNではなかった)のメンバーで、ちっとも売れていない時代のことでした。

転調と言えばやはり平行調への転調(例えば Am から C )や同名調への転調(例えば Am から A 、同名調の代わりに同主調とも言う)というのが基本でしょう。

私にとっては小学校や中学校の音楽の授業なんてむしろ苦痛の時間でしたが、それでも転調について習った瞬間は「うむ、なるほど」と感じ入った記憶があります。その時の曲は「帰れソレントへ」かなんかで、例に違わず平行調か同名調への転調でした。

耳を澄ませてみると、転調というのは決して音楽の教科書に載っているような曲ばかりではなく、巷で流行っている曲の中にもありました。平行調や同名調への転調は、例えば沢田研二やキャンディーズの歌の中にも見つけられました。

それから色んな曲を聴くうちに、世の中には平行調とか同名調への転調などという生易しい転調ばかりではないことを知りました。次第に私はもっと不思議な感じのする様々な転調を求めるようになりました。

有名なところでは、イントロが終わった瞬間に「おいおい、どこからメロディが始まるんだい?」と唸ってしまう Eric Clapton(Derek and the Dominos) の "LAYLA" には言いようもなく惹かれました。

チューリップのデビュー曲「魔法の黄色い靴」の転調に次ぐ転調には腰を抜かしました。

はちみつぱいの「釣り糸」を聴いた時には、(作曲者の橿渕哲郎の担当楽器がドラムスだったこともあって)「こいつは音楽の基礎が解っていない奴に違いない」と思いましたが、同じ橿渕によるムーンライダーズの「砂丘」を聴いて考えを改めました。

矢野顕子のデビュー・アルバムに収録されていた「電話線」は、(ムーンライダーズもよくやるのですが)転調と変拍子が同居していて、心が躍りました。

さて、"My Revolution" の場合は Fmaj9 というおしゃれなコードで始まりますがキーは C で、サビから A に転調します。それほどぶっ飛ぶような転調ではありません。むしろスムーズすぎてうっかりしていると気づかないくらいです。

サビの直前でキー C のドミナント・コードである G7 を使っています。ここからそのまま C に解決してサビに入っても特に問題はないのですが、小室はここで Esus4 と E7 を2拍ずつ入れて1小節伸ばしています。これは C のウラのキーである Am のドミナント・コードです。そして、Am の同名調である A に転じているのです。

つまり、この曲は大雑把に言うと C から A に3度下がる転調なのですが、細かく見ると「1小節だけ平行調に、そのまま続いて同名調に」という転調だったのです。

関係調ではないところに転調しながらこれだけスムーズなのはそういう訳です。

このテクニックによって、この曲は鮮やかな表情を身につけています。

しかし、私が一番感心したのは実はもっと瑣末なことでした。

この曲は前述した通り、G7 からキー C のままサビに入っても特に問題はありません。しかし、もしも C のままサビに入っていれば、当然のことながらキーが A の場合に比べてメロディ・ラインは3度高くなってしまいます。そうすると曲全体の音域が広がりすぎてとても常人には歌えない歌になってしまうのです。小室は転調することによってそれを防いでいるのです。

私はこの点に痛く感心した記憶があります。

久しぶりにあの歌を聴いて、あの時の新鮮な感動が甦ってきました。とんでもない名曲だと思います。


【追記】

ということで、歌謡史に残る転調名作選みたいなものを編んでみました。

選定の条件は、

  1. 昭和/平成年間に日本で発売された曲(主にシングルやタイアップ)であること
  2. 日本語による楽曲であること
  3. 作曲者が日本人である必要はなく、従ってカバーも含む

の3点です。以下をご覧になりながら、「そう言えば、あの曲もあったじゃないか」などとお楽しみいただければ嬉しいです。


夜霧のプラットホーム(二葉あき子)
服部良一/作曲、1947年
長崎の鐘(藤山一郎)
古関裕而/作曲、1949年
雪の降るまちを(立川清登)
中田喜直/作曲、1952年
お前はひな菊(ジャックス)
早川義夫/作曲、1968年
愛は傷つきやすく(ヒデとロザンナ)
中村泰士/作曲、1970年
陽はまた昇る(伊東ゆかり)
筒美京平/作曲、1972年
カレーライス(遠藤賢司)
遠藤賢司/作曲、1972年
花のある坂道(大石吾朗)
都倉俊一/作曲、1972年
魔法の黄色い靴(チューリップ)
財津和夫/作曲、1972年
ベルベット・イースター(荒井由実)
荒井由実/作曲、1973年
追憶(沢田研二)
加瀬邦彦/作曲、1974年
哀愁のシンフォニー(キャンディーズ)
三木たかし/作曲、1976年
恋は紅いバラ(殿さまキングス)
佐瀬壽一/作曲、1976年
COOL(マザー・グース)
京田由美子/作曲、1977年
お元気ですか(清水由貴子)
三木たかし/作曲、1977年
ガンダーラ(ゴダイゴ)
タケカワユキヒデ/作曲、1978年
ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ(鹿取洋子)
W.F.Koopman/作曲、1979年
パープルタウン(八神純子)
八神純子, R.Kennedy, J.Conrad, D.Foster/作曲、1980年
春咲小紅(矢野顕子)
矢野顕子/作曲、1981年
う、ふ、ふ、ふ、(EPO)
EPO/作曲、1983年
君に、胸キュン!(Yellow Magic Orchestra)
Yellow Magic Orchestra/作曲、1983年
天国のキッス(松田聖子)
細野晴臣/作曲、1983年
シャイニン・オン 君が哀しい(LOOK)
千沢仁/作曲、1985年
My Revolution(渡辺美里)
小室哲哉/作曲、1986年
きみと生きたい(大江千里)
大江千里/作曲、1986年
負けるもんか(BARBEE BOYS)
いまみちともたか/作曲、1986年
キスを止めないで(小泉今日子)
野村義男/作曲、1987年
秋のIndication(南野陽子)
萩田光雄/作曲、1987年
RUNNER(爆風スランプ)
Newファンキー末吉/作曲、1988年
GLORY DAYS(大江千里)
大江千里/作曲、1988年
抱いてくれたらいいのに(工藤静香)
後藤次利/作曲、1988年
Real Mind(森川美穂)
和泉常寛/作曲、1988年
きっと言える(荒井由実)
荒井由実/作曲、1989年
道(森高千里)
安田信二/作曲、1990年
きれいだネ(詩人の血)
渡辺善太郎・辻睦詞/作曲、1990年
愛は勝つ(KAN)
KAN/作曲、1991年
あなたに会えてよかった(小泉今日子)
小林武史/作曲、1991年
ロマンスの神様(広瀬香美)
広瀬香美/作曲、1993年
【es】 ~Theme of es ~(Mr. Children)
桜井和寿/作曲、1995年
a walk in the park(安室奈美恵)
小室哲哉/作曲、1996年
誘惑(GLAY)
TAKURO/作曲、1998年
my graduation(SPEED)
伊秩弘将/作曲、1998年
Timing(ブラックビスケッツ)
中西圭三・小西貴雄/作曲、1998年
Fly(SMAP)
野戸久嗣/作曲、1999年
Stay by my side(倉木麻衣)
大野愛果/作曲、2000年
青空のナミダ(高橋瞳)
田中秀典/作曲、2005年
大丈夫(ウルフルズ)
トータス松本/作曲、2005年
ORION(中島美嘉)
百田留衣/作曲、2008年
ワニとシャンプー(ももいろクローバーZ)
前山田健一/作曲、2011年
Dear(中島美嘉)
杉山勝彦/作曲、2011年
何度目の青空か?(乃木坂46)
川浦正大/作曲、2014年
TERRITORY(百合城銀子、百合ヶ咲るる、椿輝紅羽)
八王子P/作曲、2015年
One Light(Kalafin)
梶浦由記/作曲、2015年
翼(藍井エイル)
Ryuhey Yamada/作曲、2016年
サイレントマジョリティー(欅坂46)
バグベア/作曲、2016年
Here(JUNNA)
白戸佑輔/作曲、2017年
祝福(TOASOBI)
AYASE/作曲、2022年

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