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Sunday, December 10, 2017

映画『光』

【12月10日特記】 映画『光』を観てきた。小さな館だったが満員だった。

監督は大森立嗣。僕としては『ゲルマニウムの夜』『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』『さよなら渓谷』辺りの印象が強いのだが、これ以外に『まほろ駅前』シリーズや『セトウツミ』もあったことを考えると、この監督が如何に多才かが分かる。

原作はその『まほろ駅前』シリーズの三浦しおん。僕は『風が強く吹いている』と『舟を編む』しか読んでいない。今回、へえ、こんな小説も書くのか、とちょっと驚いた。

複雑な話である。そして 137分という長い映画である。美浜島という原生林が生い茂る小さな島で育った3人の物語。

14歳の信之と美花は親に隠れてコンドームを調達した上で落ち合う仲。10歳の輔(たすく)は信之を兄のように慕いつきまとう。輔が父親の暴力を受けていることは誰もが知っているが、誰もどうしてやることもしないし、できない。

そんな中、信之は美花が見知らぬ男とまぐわっているところを目撃する。暴行を受けているのか合意の上なのか半信半疑のまま、美花の「そいつを殺して」という言葉を受けて信之は男を撲殺してしまう。

そして、いつものように信之の後をくっついてきた輔が全てを見てしまい、持っていたカメラで死体の写真も撮る。

物語はその25年後に転じ、市役所に勤め結婚して子供もできた信之(井浦新)とその妻・南海子(橋本マナミ)、解体工場で働きながら信之の居場所を突き止めた輔(瑛太)、そして、経歴を明かさない美しい女優となった美花(長谷川京子)らが描かれる。

輔は子供の頃からあれほど信之のことが好きだったのに、いつも子供扱いされ邪険にされたというねじ曲がった記憶に取り憑かれており、その歪んだ気持ちから信之よりも先に南海子に近づいて体を重ねる関係になり、さらに死体の写真で信之を脅して金を取ろうとする。

そこへ、行方が分からなかった輔の父・洋一(平田満)が現れ、輔に金をせびろうとするところから、今度は輔と一緒に信之と美花を恐喝して金を奪おうとする二重構造になる。

この辺がとても面白い。信之は一度人を殺している。美花は人を殺させている。輔はその一部始終を見てしまった。そして、その輔を暴力で抑圧していたのが洋一だ。

もう一回同じようなことが起こるのではないか、と観客は思う。そして、信之の妻・南海子もまた子育てに疲れ、何を考えているか分からない信之の態度に苛立ち、精神的にギリギリのところまで追い込まれている。

画面に殺意が漲る。すぐにでも誰かが殺されるのではないかと思う。でも、そこまでは行かない。と思っていたらやっぱり殺人は起きる。この辺りのストーリーのうねらせ方がすごい。

無表情と激情を行き来する井浦新と橋本マナミの演技が良い。素直で純真な少年がこんな悪魔的になったのかと驚かせる瑛太も見事だった。

冒頭からジェフ・ミルズの音楽が禍々しく鳴り響き、森には赤い花弁か葉がボロボロと落ちている(最初のシーンでは僕は分からなかったのだが、後にそれが椿の花であったことが明示的に語られる)のが妙に不吉である。

狼の乳を吸う双子の兄弟の像が団地の入口にあったり、突然岡本太郎美術館の大量の作品が出てきたり、フリーダ・カーロの大地に根を生やした自画像がかかっていたり、そして、現実かと思ったら信之の夢であったり心の中であったり、全てが刺激に富んでいる。

血も流れるし、人間としての思考も壊れてしまう一瞬がある。しかし、そんな悲惨な物語なのに、見終わって「ああ、良かったな」とホッとしてしまう不思議は何だろう?

ところどころで省略して次へ飛ぶ。たいへん巧い脚本だった(脚本も大森立嗣)。

知らずに行ったのだが、上映に引き続いて大森監督のトーク・イベントがあった。マイクを持った大森監督が「この映画は暴力がひどいとか、何を言いたいのか分からないとか、SNS上でディスられていますが」と言ったので驚いた。

日本の観客はいつの間にそんな風になってしまったのか、世も末だなあと思った。

すると、イベントで質問に立った観客の一人が「監督は貧乏をすると犯罪に走るということを描きたかったのですか?」と言ったので、さらに驚いた。

監督は「いや、そんなことは全く考えていません」と困惑しながらも丁寧に思いを語り、「解りますかね?」と返したら、男は顔を真っ赤にして「全然分かりません」と言う。さらに「監督はそれが人間の本質だということを言いたかったのか、それとも本質ではないと言いたかったのか?」などと食い下がる。

僕は横から「いやいや、監督はそんな風にきれいに割り切れないよということを言いたかったんじゃないですか」と助け舟を出したい気分になった(もちろん、何も言わなかったし、その辺りで司会が打ち切って他の人の質問を取り上げてくれたから助かったのだが)。

映画監督もいろんな観客がいて大変だなと、心から同情する。でも、まあ、気を取り直して、しっかりと自分の思いをスクリーンに焼き付けてほしい。とても良い映画だった。

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