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Friday, November 10, 2017

新解さん加わる

【11月10日特記】 スマートフォンに僕ぐらいたくさんの辞書アプリを入れている人もそうはいないのではないかと思う。にも関わらず、この間またひとつ国語辞典のアプリを入れた。

きっかけは篠沢秀夫元教授の訃報を伝えたテレビ番組だった。その番組では「篠沢教授は 43歳の時に『クイズダービー』の解答者に抜擢され」と紹介していた。僕はその表現に違和感を覚えた。

それでコトバンクで「抜擢」を引いてみた。僕のコトバンクには2つの国語辞典が収められている。

ポケットプログレッシブ国語辞典は「大勢の中から特に引き抜いて使うこと」と書いてあった。デジタル大辞泉では「多くの中から特に選び出してある役目につけること」とある。

それらを読むと上記の「抜擢」の使い方は辞書的には別段間違っていないようだ。でも、僕は何だか納得が行かない。僕の感覚では「抜擢」というのは何と言うかもっと「職位」を意識した表現ではないかと思った。

そう思った時に、ふと、新解さんならその辺りのニュアンスをちゃんと書いているような気がしたのである。

赤瀬川原平が『新解さんの謎』で新明解国語辞典のユニークさを紹介したのは 1996年だった。多分その時に僕はその辞書を一度本屋で手に取ったと思う。しかし、その時は何だか余計なことを語りすぎている辞書だなと感じて、結局は買わなかった。

なのに何故かこの「抜擢」の使い方に当たったときに、僕の味方をしてくれるのは新解さんのような気がしたのである。

そんな気がし始めると居ても立ってもいられなくなり、早速 App Store からダウンロード。第七版、1200円。

果たして、「抜擢」を引いてみると、「おおぜいの中からその人を目的に合う(能力のある)者として選び出し、特に重要な役目に就けること」とある。うん、これなら僕の感覚に近い。ポイントは「特に重要な役目」である。

『クイズダービー』は確かにテレビの歴史に残るほどの大ヒット番組ではある。しかし、その一出演者が「特に重要な役目」であると言うのは少し無理がある。

しかも、篠沢秀夫はすでに43歳にして、大学教授という地位にいたのである。それを「『クイズダービー』の解答者に抜擢」と言うのは少し大げさ、と言うか、釣り合わないのではないだろうか? そもそも大学教授とテレビ番組出演者という2つの職位はどちらが上なのだろう?

もしも、テレビ番組のほうが遥かに「重要な役目」であるとするのであれば、それは相当な番組の相当な役割である。テレビ番組に関して、もしこの「抜擢」という言葉が使えるとしたら、それは「『紅白歌合戦』の司会者に抜擢」というケースぐらいではないだろうか。

結論として、この篠沢元教授のような場合は「抜擢」ではなく「起用」で充分ではないかというのが僕の見解である。

ともかく、この新解さんの答えには大満足である。それで僕が長年違和感を覚えてきた「あざとい」も引いてみた。

ちなみにポケットプログレッシブ国語辞典では「あざとい」は「①こざかしい。小利口である。②あくどい」であり、デジタル大辞泉では「やりかたがあくどい」「小利口である。思慮が浅い。あさはかだ」とある。

僕は「あざとい」を「あくどい」の意味で使ったことはない。そういう意味があるとは全く知らなかった。「こざかしい」「小利口である」はまあ、僕の認識に近いが、僕はそこに「わざとらしい」というニュアンスを加えて使ってきた。

さて、新明解国語辞典は「①浅はか(小利口)な点が目につく様子だ。②あくどいところが有って、悪い印象を与える様子だ」とある。

「わざとらしい」というニュアンスはない。今までいろんな辞書を引いて僕が結論づけてきたように、やっぱり単に「あざとい」「わざとらしい」という音の類似性から僕が混同してきた、というのが実際のところなのかもしれない。

でも、こちらの新解さんの書きっぷりも気に入った。「目につく」「悪い印象を与える」というくどい表現が、「あざとい」のニュアンスを表しているように思う。

僕は新解さんに対する信用を強くした。今後この辞書を多用しそうな気がする。

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