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Tuesday, August 29, 2017

映画『君の膵臓をたべたい』

【8月29日特記】 映画『君の膵臓をたべたい』を観てきた。最初はタイトルに嫌悪感を覚えた。『先生を流産させる会』以来の嫌なタイトルだと思った。放っておいたら、その映画と同じように、タイトルだけで観に行かずに終わるところだった。

でも、この映画は随分評判が良いみたいなのだ。それで観ることにした。そんなわけで予備知識はほとんどゼロである。

映画が始まって、「あ、小栗旬なのか」と思った。そして、回想シーンになり、彼の高校時代の同級生の女の子・桜良が出てきて、「あ、これは浜辺美波ではないか!」と小躍りした。

僕は『咲』で彼女を知った、と言うか、『咲』の浜辺美波しか知らないのだが、「この子はきっと来る!」と確信した。

そして、アバンタイトルの後、スタッフの名前が出て、脚本は吉田智子である。良い脚本家が書いているではないか。

小栗旬が演じる【僕】(春樹)は母校で国語を教える教師なのだが、冒頭の授業中のシーンで彼の話を聞かずに物音を立てた女生徒に対する何とも言えない無力な感じがこのキャラクターをとても巧く描いている。台詞ではなく状況で描ける脚本家なのだ。

監督は月川翔。名前に記憶はあるが作品名は出て来ない。でも、帰宅して調べてみたら、行定勲が『クローズド・ノート』を撮っていたときのメイキング担当が三木孝浩で、その三木のアシスタントが月川だったという。これは僕の好きな“筋”だ。

原作は大ヒット小説なのだそうだが、難病や死を道具に使ったストーリーというのは僕からすると安直とかステレオタイプとか言うのではなく、それは卑怯な飛び道具なのである(笑)

しかも、こんな死に方というのもかなりひどい。

春樹(北村匠海)は桜良が膵臓の病気で余命幾許もないことをただひとり(と言っても実際彼女の病気のことを知っているのは彼だけなのだが)大騒ぎせずに淡々と受け入れて、でも真面目に対応してくれた。

でも、多感な年代である。女の子から直接「私はもうすぐ死ぬ」などと聞かされると、もっと動揺があってしかるべきである。もちろん、それを押さえて普通に接してくれたことが桜良にとって嬉しかったのだということは分かる。でも、描き方としては一筆欠けている気がする。

これはかなり可愛いクラスメートがクラス1目立たない自分に好意を持ってくれるという、男の子なら誰でも(なのかどうか知らないが、少なくとも僕はそうだった)夢想する夢物語である。だから、男性の観客でもすっと入り込んで行ける設定だと思う。

ただ、それにしてもティーンズの男子であれば、もっと性的な衝動があっても不思議ではない。【僕】のキャラクターもあるが、そこはあまりに潔癖だし、描かれ方が単調だ。

また、桜良にしても天使のように素直で爛漫な女の子に描かれているが、内心は不安を隠して一生懸命明るく振る舞っているに違いない。もちろんそういう部分も描かれてはいるが、深みが足りないのも確か。

つまり、そういういろんな点でこの物語は構造的には不完全なのである。にもかかわらず、これだけすんなりと観客の心を動かすのは、やはり脚本の巧さだと思う。

聞けば原作では登場人物たちの成人後は描かれていないと言う。そこに母校の教師になった主人公を登場させて現在と回想を切り替えて行く形に作り変えたのは(これは脚本家ではなく監督のアイデアのようだが)本当に見事である。

そして、【僕】の現在の教え子に当時の自分を重ねた設定がさらに層を重ねて、わざとらしさはあるが、巧いなあと思った。

北村匠海も浜辺美波もまだあまり上手い役者ではない。ただ、それが少年らしいぎこちなさや、気丈に作り笑いしている少女の硬さに繋がっていて、却って良かった。

そして、彼らのその後を演じた役者たち──小栗旬、北川景子、上地雄輔らが揃って巧いから話が締まった。

そして、タイトルとなっている台詞が最初のほうとラストで2回出てくるのだが、これが的確に作品の全体像を凝縮しており、観ていて、ああ、参ったという感じである。

教室、屋上、図書館──学校の設備をきれいなきれいな枠組みとしてとても上手に使っている。ヒロインをこの上なく可愛く撮れているのも良い。

パンフレットには月川翔のことをポスト三木孝浩と書いてあった。なるほど、その線で今後期待できる存在である。

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