映画『心が叫びたがってるんだ。』
【8月13日特記】 映画『心が叫びたがってるんだ。』を観てきた。例によって僕は原作を知らない。ただし、原作と言ってもこれはコミックスではなく、オリジナル劇場版アニメだった。
大ヒットしたと言う。これはその実写版だ。そこそこ原作に忠実なようだ。
これは一種のおとぎ話である。劇中劇として言葉(声)を失った少女のおとぎ話が出てくるが、映画全体のストーリー自体が一種のおとぎ話である。劇中劇はまさに言葉(声)を失った少女が自分の体験をミュージカルに書いたものである。
成瀬順(芳根京子)は小さい時におしゃべりが過ぎたことの“呪い”(少なくとも本人はそう信じている)で、喋れなくなる。喋ろうとすると強烈な腹痛に襲われるのである。
そんな順が担任の城嶋先生(荒川良々)から「地域ふれあい交流会(ふれ交)」の実行委員に指名される。
他の委員は、小さい頃から音楽をやってきたが、ある時期から決して本音を語らなくなってしまった坂上拓実(中島健人)、拓実と中学時代につきあっていたチアリーダー部部長の仁藤菜月(石井杏奈)、そして肘を痛めて甲子園出場の夢破れた野球部のエース田崎大樹(寛一郎)だ。
ふれ交の催しに関してはただでさえ乗り気でない4人、そしてやる気のないクラスメートたちに対して、城嶋先生はミュージカルをやってみてはどうかと言い出す。順は授業でミュージカルの楽しさに触れ、そして、喋るのではなく歌うのであればお腹が痛くならないことに気づいて、ミュージカルをやってみたいと思う。
そんな順の勇気と熱情にほだされて、他の委員たちもクラスメートもひとり、またひとりと協力的になり、やがてひとつにまとまって行く、というおとぎ話だ。これで最後に順が声を取り戻すようなことになればますますおとぎ話なのだが、これはどう考えてもそこに向かって進み行くしかない設定である。
で、監督は青春恋愛モノには定評のある熊澤尚人である。それほど仕掛けを感じさせる人ではないのだけれど、今回も役者たちの良い芝居を引き出して、良い表情をカメラに収めている。
脚本は熊澤監督の代表作(と言って良いと思う)『おと な り』の原案を手がけ、熊澤監督の『近キョリ恋愛』の脚本も書いたまなべゆきこである。この監督とは相性が良い。
馬鹿馬鹿しい話だし、冒頭の子役の演技などは特にオーバー気味なのだが、それほど浮いた感じにならない。
青春っぽい良い話がトントンと展開して、しかし、いくらなんでもこのままハッピーエンドというわけじゃないだろうな?と疑いだした辺りに曲がり角を持ってきて、えーこんな終盤になって台なしにするか!と呆れたら、そこからまとめて行く手際も見せてくれた。
エンドロール後のエピローグ(と言うか、これが本当のエンドシーンである)もすこぶる爽やかで、まあ、賞は獲らないまでも、却々清々しい良い作品だったのではないかな。
芳根京子はNHKの連ドラを終えたばかりでこの撮影に入ったようだが、むしろその前の『表参道高校合唱部』の頃の伸びやかな演技で好感が持てた。
それから、中島健人は、大人になったなあ、などと言うと失礼かもしれないが、何しろ僕は男のアイドルなんぞには興味がないので、バラエティなどでチラチラ顔を見はしたがじっくり見るのは『銀の匙』以来で、男っぽくなったのにびっくりした。
そして、石井杏奈。僕は今日まで彼女が E-girls のメンバーとは知らなかった。『ソロモンの偽証』、『ブルーハーツが聴こえる』などワガママ娘の役が多かったが、今回は優等生。この子、だんだん良くなっている気がする。
そして、寛一郎もオーディションで選ばれた新人とは思えない存在感で、まあ、このキャスティングがこの映画のすべてだったかもしれない。
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