パンフレット取り違え事件
【7月18日特記】 昨日映画のパンフレットを取り違えられた。『彼女の人生は間違いじゃない』を観て、そのパンフレットを買ったのだが、電車の中で袋を開けてみると、それは『ありがとう、トニ・エルドマン』のそれだった。
なお、映画館で売っている小冊子をプログラムと呼ぶ人もいるようだが、僕はプログラムとは進行表的なものだと思っているので、パンフレットという表現を用いる。
で、この日パンフレット売り場で映画名を告げると、店員は最初から黒いビニール袋に入った小冊子を僕にくれた。
これは映画館によるのだが、まずは裸のパンフレットを1冊抜いてそれをビニール袋に入れてくれるケースが多い。そういう場合、僕は大体「そのままで結構です」と言って裸のままもらってバッグに仕舞う。
最初からビニール袋にセットしてあるケースも少なくないが、その場合は売り場の係員が袋から半分くらい引き出して「これですね?」と確認してくれることが多い。
昨日の場合はそれがなかった。受け取ってすぐに確認しなかった僕も迂闊と言えなくもないが、まさか他のパンフが入っているとは夢にも思わなかった。
ここから先、悪口を書くつもりはないので、映画館名を書いてしまって良いと思う。それは新宿武蔵野館だ。ここまでのところ都内で僕が一番多く通っている映画館である。
気がついたときには僕は電車の中で、新宿駅に戻るにはちょっと面倒くさい距離を走ってしまっていた。
「家まで郵送してもらえませんか?」
「映画館までお持ちいただかないと、こちらも確認ができませんので」
とか何とか言われるのだろうな、と覚悟して電話をしたら、呼び出し音が長く続いて結構待たされた。これが僕にとっては良かった。多分従業員はみんな忙しかったのだろう。「支配人」だったか「館長」だったか忘れてしまったが、ともかくこの映画館で一番偉い人、責任者が電話を取ってくれたのである。
対応はすこぶる感じが良かった。こちらの言うことを疑ったり根掘り葉掘り質問したりすることなく、僕のひととおりの説明を聞くとすぐに「それは申し訳ありませんでした」と彼は言った。
そして、僕がもう新宿を離れてしまったことだけを確認すると、「差し支えなければご自宅まで送らせていただきます」と言った。
手続きは極めて事務的、かつ迅速、的確で、今僕の手許にすでにそのパンフレットは届いている。
ものすごくスノビッシュなものの見方かもしれないが、僕は「やっぱり偉い人は違う」と思った。
末端の従業員が僕の電話を受けていたら、ひょっとしたらもめていたかもしれない。それは従業員がろくにやる気がない場合と従業員がまじめすぎる場合の両方があるのだが、いずれにしてもどちらも客に対して良い印象を残すものではない。
杓子定規に考えると、電話を受けただけの時点では、僕が確かにお金を払ってパンフレットを購入した人物であるという証拠が全くない。それに間違ったのは店員のせいだという証拠もない。僕が映画名を言い間違えたのかもしれない。
でも、だからと言って四の五の言っても映画館に対しては大した利益にも、損害の防止にもならない。
僕が嘘をついてまでして僅か 720円のパッフレットを詐取しようとしたと考える合理性がないし、仮にそうであって今回 720円を騙し取ったとしても、同じ手を何度も同じ映画館に使えるわけがないから、それ以上被害が拡大することも考えにくい。
で、あれば、万が一、最悪 720円を溝に棄てることになっても良いから、この際は客に丁重に接して印象を良くしておくことのほうがよっぽど得である。
あまりに四の五の言われると、僕はこの映画館には二度と行かないかもしれない。逆に対応が良ければ、また今度、わざわざこの映画館を選んで観に行くかもしれない。
僕だけではなく、みんなに対してそういう接遇をしていると、映画館の売上はたとえ少しずつであっても増えて行くかもしれない。
偉い人というのはそういうことが解っている人のことなのである。いや、そういうことを解っている人だけに偉くなってほしいものだと僕は思っている。
僕は支配人が僕のことばをそのまま信じてくれたから喜んでいるのではない。瞬時にそういう計算ができる人が対応してくれたことを喜んでいるのである。それが商いの道ではないだろうか。
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