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Saturday, June 10, 2017

映画『22年目の告白 ──私が殺人犯です──』

【6月10日特記】 映画『22年目の告白 ──私が殺人犯です──』を観てきた。

入江悠監督と言えば、僕にとってはいまだに『サイタマノラッパー』シリーズと『神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』などの自主映画風の印象が強く、久しぶりに作品を見て「いつのまにこんな商用のエンタテインメントを撮れるようになったんだろ?」としみじみ思ってしまった。

原作は韓国映画らしいが、阪神淡路大震災や刑法改正による時効の消滅などを巧くからませており、これはかなり現代の日本向きに書き換えたのだろうなと思う。良い脚本だった(平田研也と入江悠の共同)。

1995年に何の罪もない5人の人間を残忍なやり方で連続的に殺した男が、15年の時効からさらに7年経った2017年に突如「私が殺人犯です」と名乗り出る。それが曽根崎雅人(藤原竜也)である。その登場の仕方のかっこよさはネット上などで一部の人たちにもてはやされる一方で、出版社には抗議のデモが押し寄せるなど、世論は二分される。

彼は手記を出版し、サイン会を開き、テレビにも出演してますます時の人となる。

ここまでは良い。さて最終的にこの話をどう持って行くかに興味が湧いた。そのまま「曽根崎は変質者でした」で終わるわけには行かない。かと言って、「曽根崎は改心しました」は嘘くさい。この後はどう進むのか?

彼に身内を殺された書店員の岸美晴(夏帆)や病院院長の山縣(岩松了)、暴力団組長の橘(岩城滉一)らは激しい憎悪を燃やし、チャンスがあれば曽根崎を殺そうとまでする。

そして、もうひとり、刑事の牧村(伊藤英明)。彼は犯人を逮捕目前まで追い詰めながら逃げられる。その際に左肩を撃たれた怨みから犯人は彼を5番目の殺人のターゲットとするが、手違いで上司の滝刑事(平田満)を殺してしまう。

曽根崎はどこまでも世間を挑発し、結局仙堂俊雄(仲村トオル)がメインキャスターを務めるテレビ番組に出演して仙堂と対決することになる。するとそこに、「曽根崎は偽物だ。俺が本物の殺人犯だ」と名乗る投書があり、後日同じスタジオで、仙堂と曽根崎、牧村と、真犯人を名乗る覆面の男が一堂に会することになる。

そこからこの映画は新たな局面に入るわけだが、この映画はストーリーが全てと言って良いので、これ以上は書けない。

僕は中盤の大きな種明かしまでまんまと騙されてしまった。さすがにそういうからくりとは見抜けなかった。これはよく考えたトリックだと思った。

ただ、その後犯人の謎が解け、その先犯人がどうなって、最終的にどういうことになるのかについては割合容易に読み切れてしまった。ただ、それはこの映画がしっかりと伏線を張っていることの証だと思う。唐突な新事実が飛び出して観客をげっそりさせることのない、極めてまともな脚本だったと思う。

藤原竜也、伊藤英明、仲村トオルの3人はもとより、被害者の遺族の夏帆や岩松了、岩城滉一ら、また牧村の妹とその彼氏を演じた石橋杏奈と野村周平もそれぞれに却々の嵌り役で良かったと思う。

大切な人間を殺されたのが刑事であり、本屋の店員であり、医者であり、ヤクザであったという設定がストーリー上見事に生きている。そして、牧村の妹と彼氏が震災の神戸から逃げてきたという設定も非常によく効いている。

第37稿まで書いたという脚本は本当によく練り込まれていた。舞台上やテレビ局のスタジオ、夜のビルの屋上や、電気の消えた別荘の部屋など、ロケーションにも変化をつけ、暗闇やスポットライト、鏡などで画作りにもかなり凝っていた。

良質のエンタテインメントだった。

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